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1651億円減損のキヤノンメディカル、問われる社員の意識改革。東芝出身でメディカル事業のプロである社長が挑む「キヤノンとの一体化」とは?

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瀧口 登志夫/たきぐち・としお 1980年、東京大学工学部精密機械工学科を卒業、東京芝浦電気(現・東芝)入社。2003年東芝メディカルシステムズマーケティング統括部長、2013年同常務、2014年同社長。2017年よりキヤノン専務執行役員メディカル事業本部長、2021年よりメディカルグループ管掌(現職)、2024年4月よりキヤノン副社長執行役員兼キヤノンメディカルシステムズ社長(現職)(写真:尾形文繁)
キヤノンは2024年12月期決算において、2016年に東芝から6655億円で買収したキヤノンメディカルシステムズ(旧・東芝メディカルシステムズ)ののれんを中心に、1651億円もの大規模な減損を計上した。再び成長軌道に乗せるため、キヤノンはメディカル事業の研究開発や管理部門を本社と一体化する「大改革」を進めている。現キヤノンメディカルシステムズの社長であり、東芝傘下の時代から長年にわたり事業を率いてきた瀧口氏に、改革の真意を聞いた。

――キヤノンは前期に減損を計上する前から「メディカル事業革新委員会」を立ち上げて改革に取り組んでいます。まずは委員会設立の経緯について教えてください。

正式に委員会をスタートさせたのは昨年2月だが、事の発端は2年以上前にさかのぼる。それ以前からキヤノンの御手洗冨士夫会長とは「いろいろ手を打たなければならないよね」という共通認識があった。外部環境は徐々に変化しており、自分たちが取り組むべき課題の優先順位が変化していることを肌で感じていた。そうした中で、「これは本腰を入れて考えなければならない」と判断した。

現在、委員会の場で進めているのは、メディカル事業が今後どういう体制で、どこを目指して進んでいくのかという「指針」を明確に定めること。その指針に基づいた組織体制をしっかり築いて、来2026年12月期以降運営していこうとしている。

現状4〜5%の営業利益率を、10%に引き上げることを目標としている。これを2026年度から始まる中期経営計画の中でどのように実現するかを、今まさに検討している。

逆風となったコロナ禍影響と猛烈な円安

――課題とは、具体的には?

新型コロナの影響は特に大きく、経済安全保障の観点からもヘルスケアが国家戦略の一部として位置づけられつつある。中国や中東諸国など医療機器や技術を国産化したいという動きが強まっている。例えば、ブラジルやサウジアラビアでは各国の政策の下、国産品の優遇が進んでいる。これまでもそうした傾向はあったが、新型コロナを契機に動きが加速した。

さらに逆風なのが、猛烈な円安だ。過去には1ドル80円台という円高水準を経験したが、現在は150円前後。長期的な事業構造の前提が崩れている。もちろん円安の恩恵を受ける面もあるが、それ以上に輸入コストや部品調達価格の高騰といったマイナス面が顕著だ。円安だけでなく、地政学的リスクや人件費高騰などの要素も計画に狂いを生じさせ、減損処理という結果にもつながった。

――海外市場での販売やマーケティングのテコ入れも進めています。

海外展開においては、長年の課題であった「代理店依存」からの脱却を進めている。競合他社がすでに各国に現地法人を置いて、自前で販売やサービス体制をつくっているのに対し、キヤノンを冠した販売現地法人は25カ所ぐらいしかない。

もちろん、これには歴史的な背景がある。中国やトルコのような国では、昔から市場が人脈ベースでできていて、外資が単独で入っていくにはリスクも高かった。だから慎重にならざるをえなかった部分もある。ただし、時代は確実に変化している。例えば中国では、近年になって政府主導での腐敗撲滅や透明性の向上が進められ、かえって企業として参入しやすくなってきた側面もある。

インドでも、これまで代理店に頼っていたが、今は現地法人を立ち上げて、自分たちの手で運営する体制に移行している。もちろん、これまで一緒にやってきたパートナーとも話し合いを重ねながら、共存共栄の形を模索している。

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