ロシア・ウクライナ戦争後、日本が果たすべき役割 政策を検証し代案を示すのがシンクタンクの使命

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先進諸国のダブルスタンダード

鈴木:国際秩序の構築という観点からは、南北問題や過去の植民地支配の問題など、国際法や国際世論形成上のダブルスタンダードの問題に課題があります。今回のウクライナの問題に関しても、ウクライナには注目するけれど、シリアやイエメンへの関心は低いといった問題もあります。

こうしたダブルスタンダードの問題は、新しい国際秩序を形成するにあたり、どのような影響を及ぼすのでしょうか。国際正義、あるいは国際的な大義といった問題は、今回の戦争でも重要な問題となりましたが、新しい国際秩序を形成するうえで、先進国と途上国とのダブルスタンダードや、先進国が主導する国際世論の形成の是非について、どのようにお考えですか。

神保:今般、国連の安保理で日本は非常任理事国に再び選出されました。国連安保理の理事国になることは、公式会合だけでなく非公開の非公式協議を含めて、国際社会の平和と安全の維持に責任を負うことになります。安保理常任理事国との情報共有のレベルは格段に上がるため、日本としてはこの任期中に国際安全保障への働きかけを強めることができます。

他方で、安保理の議題や決議の多くは内戦や平和維持、避難民などの問題を抱える中東やアフリカの問題です。安保理理事国としての責任を果たすためにも、 日本国内で世界各地の紛争に対する関心を高める必要があります。紛争への関与のレベルを上げていくことによって、ダブルスタンダードの問題も克服できるのではないかと思います。

傷ついた正当性

細谷:冷戦後の歴史を振り返ると、1990年代以降、新自由主義やグローバル化が浸透する中で、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)という言葉に象徴される「富の偏在」は来るところまで来てしまったと思います。本当に一握りの人たちに富が偏在しています。一方、イラク戦争では、世界最大の大国であるアメリカが国際法をねじ曲げるようなことを行ってしまいました。そのため、冷戦後の30年で、経済的な観点からも、安全保障的な観点からも、欧米主導の国際社会に対する信頼というものは大幅に低下したのだと思います。

一方、冷戦終結前後の日本は、当時、世界第2位の経済大国として、例えばODA(政府開発援助)などによるアジアやアフリカ地域への支援などで、国際社会に貢献していました。が、その後、近年少しは戻していますが、ODAを減らし続け、かつてのような形で国際社会に積極的に貢献する十分なリソースを使ってきませんでした。

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