
広報という仕事は、マスコミからの問い合わせや取材対応という「今この瞬間」にどれだけ即応できるか、あるいは記事を書いてもらうために有効な交渉ができるか、そのためにマスコミのキーマンと関係をどれだけ持っているか、といった能力や経験が大切です。つまり、かなり「現場っぽい」職場です。
気がつくと、日々のマスコミ対応に追われているだけになってしまいがち。そこで「戦略的広報が大切だ」という指摘が出てきます。なるほどごもっとも、と思う一方で、具体的には何をすれば良いのかちょっとピンとこないワードでもあります。「戦略的広報」で検索するとたくさんのPR会社の宣伝がヒットしますが、どれも聞こえのよいメッセージではあるものの、何を言っているのかわかりにくいフワっとしたものが多い印象です。
そこで今回は抽象的になりがちな「戦略的広報」の具体例を一つ出して考えてみたいと思います。それは2007年にアメリカで発売され、2008年に日本に上陸したアップルのiPhoneが巻き起こしたスマートフォン革命についてです。実は筆者はまさにこの2008年にアップルでiPhoneの担当広報をしていたのです。その時に広報として何を行ったのか、考察してみたいと思います。
「日本ではiPhoneはヒットしない」
あらかじめお断りしておきますが、戦略的広報という言葉の定義は曖昧で、さまざまな主張があるようです。ここに示したものは筆者の実体験に基づいた一つの解釈にすぎません。

現在では不動の人気を誇り、携帯電話のありようまで変えてしまったといえるiPhoneですが、2008年の日本での発売当初、マスコミの評価はおおむね冷たいものでした。
「日本にはiモードがある。日本ではiPhoneはヒットしない」「iPhoneには肝心の着メロや絵文字がないので使われない」
2025年現在の我々がみるとこうした当時の論調が信じられないかもしれませんが、通信速度も遅く、通話と文字だけの簡単なインターネット「iモード」が見られれば十分便利だったこの時代、iPhoneなど必要ないというのは極めて妥当な評価で、言い換えるとそこが携帯電話というカテゴリーに対する認知の限界だったのです。
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