伊藤忠商事とスピード契約、京都府が古都の競輪場を再開発する「京都アリーナ」の整備を急ピッチで進める背景事情とは?

インバウンド客でごった返すJR京都駅から、在来線で南西へ10分足らず。京都府向日(むこう)市のJR向日町駅は、平日昼過ぎという時間帯もあってか乗降客の姿はまばらだった。
この街に収容人数約9000人のアリーナができる――。
生活環境面はともかく、観光面では歓迎されているだろうと駅前で客待ちしていたタクシーの運転手に聞くと、意外な答えが返ってきた。
「アリーナ? ああ、そんなもんできたら大渋滞で仕事ができなくなる。治安も環境も悪くなるに決まってる。大迷惑だわ!」
一体どういうことなのだろうか。
「府立大学体育館」から「向日町競輪場」へ
京都府が計画する「京都アリーナ(仮称)」。府としては当初、京都市左京区の北山エリア一帯の再整備に伴い、府立大学体育館を1万人規模のアリーナに建て替える予定だった。しかし、大学関係者やキャンパスに隣接する府立植物園の利用者などから環境と景観悪化を懸念する声が噴出。3年近くにわたって反対運動が展開される中で、誘致に名乗りを上げたのが向日市だった。

京都府南西部に位置する向日市は、平安時代に長岡京の一部だった歴史ある街だ。しかし、「西日本最小の市」とされる約7.7平方キロメートルの市域に約5万5000人が住み、生活道路の慢性的な渋滞や戦後に造られた競輪場(京都向日町競輪場)の老朽化などの課題を抱えていた。
安田守市長は、アリーナをこの競輪場の余剰地に誘致する方針を2023年6月の市議会で表明。だが、「寝耳に水」と捉えた周辺住民らは多く、市に説明を求めるとともに「向日町競輪場再整備とアリーナ問題を考える会」を結成し、2024年1月に市民シンポジウムを開いて賛否の意見を取りまとめ始めた。
その矢先の同年3月、西脇隆俊知事は府立大でのアリーナ建設を正式に断念し、向日町競輪場で整備する方針を府議会で明らかにする。
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