格差が固定化すれば、社会階層間の移動が難しくなる。能力があってもそれを発揮できないのであれば、若者の間に失望や幻滅が広がっていく。不平等なシステムは優秀な人材の登用を阻み、ひいては経済発展を妨げる。さらに、少子高齢化が急速に進み、これまでの不動産に依拠した発展モデルも機能しなくなっている。一人っ子政策の副作用は深刻で、人々が家族や国家、社会の圧力から逃れようとする傾向は強まっている。食糧やエネルギーの供給も不安定で、人権問題では国際社会からのプレッシャーもある。
理想と現実が乖離する中でプロパガンダを強化
そうした中で中国政府が力を入れるのはプロパガンダの活動だ。冒頭に述べた「中国の夢」を国民に抱かせようとするのもその一環であり、格差の是正が難しく、国民に平等な待遇を保障できない環境での国民統合が難航を極めているからこそ、夢を見させようとしているのだろう。しかし、インターネット上で人々が繋がるようになった時代に、毛沢東時代のような宣伝工作は通用せず、異論や批判に圧力を加える統治と監視の体制を強化するしかない。ただ、そこにどれだけのコストがかけられるのかが問題だ。
さらに、既得権益を手放したくない社会階層、情報統制下で官製メディアの影響を受けている人たち、あるいは「小粉紅」(ピンクちゃん)と言われるような若い愛国的ネットユーザーたちなど、共産党・政府側のプロパガンダを疑わない人たち、あるいは内心疑っていても表向きは賛同する人たちがいる。中国政府は国際政治への対応と軍事体制を増強する中で、同時にナショナリズムを煽る傾向が強まる可能性がある。
今後、中国社会がさらに不安定になれば、西側諸国や日本を槍玉に挙げ、闘争状態を継続させることで自らの正当性を確保しようとする場面も増えるのではないか。政府の政策立案においても、民間の市民交流や経済活動においても、こうした煽りには乗らず、注意深く、理性的に中国との向き合い方を考える必要がある。
(阿古智子/東京大学大学院総合文化研究科教授)
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