では後者の場合はどうすればいいのか。私はその人のmustができあがったプロセスを一緒に探求するようにしています。
吉田さんはわずかなヒントで自分のmustに気づかれましたが、そうでない場合は、生い立ちから現在に至るプロセスを、何回かに分けて振り返り、「この経験が大きく影響しているようですね」ということを共有していきます。
自身のmustに気づくための6つの項目
この作業に取り組むときは、クライアントに事前課題として以下の6項目について、ご自身で振り返って紙に書いてもらうようにしています。
1.どのような家族(両親)のもとに生まれ、どのように育てられたか
2.少年・少女時代はどのように過ごしたか
3.思春期にはどのようなことを考えたか
4.成人してからはどのように社会(仕事、家族、友人など)と向き合ってきたか
5.病気になる前はどのようなことが大事だと考えていたか
6.病気になる前はどのようなことが嫌いだったか
私たちは自分自身の歴史を生きていて、そこには一連の重要なできごとが存在しています。幼児のころに両親や周囲の人から教えられた価値観や、学童期に仲間とのかかわりのなかで学んだこと、思春期に思い立ったこと、成人に社会のなかで経験したこと、などです。
順を追ってそのことを物語ることによって、自分がどんな人間で、どんな人間になろうとしているのかが、立体的に見えてきます。この事前課題に取り組むだけで、いろいろな気づきがあったという患者さんもいるので、よかったら読者のみなさんも試してみてほしいと思います。
自分のmustがどういうもので、どういう過程でできあがってきたかを理解できたら、勇気を持ってそのmustに背いてみましょう。
私の場合、初めてmustに反抗した実験が印象的だったので、紹介したいと思います。それは、「今までだったら参加していたであろう、気の進まない仕事関係者の会合への誘いを断り、ささやかなやりたいこと、そのときは心惹かれていたターシャ・テューダーという絵本作家の人生を描いた映画を見にいったこと」でした。
ターシャ・テューダーは、50代の半ばにアメリカの田舎町に移り住み、自給自足の一人暮らしを始め、生涯その暮らしを続けました。そのライフスタイルはアメリカのみならず、日本でも話題となり、一部の熱心なファンを獲得しています。
その映画では、まさに自分の心のままに生きているターシャ・テューダーの生き様が描かれていました。「自然の美しさのなかで過ごす日々は、毎日がバケーションのようだ」というターシャ・テューダー。見終わったときは感動を覚え、心が温かくなりました。
その夜、眠りにつくときも、心の"ほかほか"は変わらず、充実感でいっぱいでした。それは今までの自分にはなかったもので、「この方向でいいんだ」と、確信めいた感覚がありました。
それからは、mustに背いてもいいと自信がもてたこともあって、反抗が徐々に大胆になり、自由になっていきました。
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