先日、担当医からの紹介で、吉田恵理さん(仮名、52歳)が私の外来を受診されました。
乳がんの手術後、再発予防を目的に抗がん剤治療を受けていた方で、治療が終わったのは半年前。「体が重い感覚が続き、気持ちも晴れない」と、ふさぎ込んでいた恵理さんを担当医が心配して、腫瘍精神科の受診を勧めたそうです。
診察室に入ってくるやいなや、「もっとがんが進行して大変な人もいるだろうに、自分なんかのために時間をとっていただいて、すいません」と頭を下げる吉田さん。私は「とんでもありません。どうぞ遠慮しないで今日はいろいろと話してください」と話し、今の恵理さんの状況について、いくつか質問しました。
そこでわかったのは、治療が終了した後も体調がもとに戻らず、家事が十分にできない自分が情けない。家族に負担をかけて申しわけないといったことでした。
家事ができなくなった自分が情けない
同席した夫の和夫さん(仮名、54歳)は妻の訴えを聞いて、「この人はすごく自分に厳しいんですよ。焦らずにゆっくりやればいいよって、私も娘も言っているんですけどね。以前みたいにきびきびと動けないことが、もどかしいみたいです」と付け足すと、恵理さんは、「私は、自分の家がきれいになっていないと、気が済まないんです」と言います。
そして、「夫や子どもの健康のために、きちんと食事を作ることが私の大切な仕事。でも、今は体がだるくて、床にほこりが落ちていても、掃除機をかけようという気力がわかない。自分はどうなっちゃったんだろう、そういう自分が情けないんです……」と言葉を続けました。
私はそんな恵理さんに、「ずいぶんと今の自分を責めておられるのですね。しかし、申しわけないというのは、自分に非があるときに使う言葉です」と話し、そのうえでこうもお伝えしました。
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