「できていた事ができなくなった」自分を許せるか 「病気でも前向きな人」に共通する自己肯定感

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人生には浮き沈みがあって当然です。仕事が今はうまくいっていても、何かのきっかけで暗転することもあり、失業することだってありえます。恵理さんのように病気になって、以前のようなパフォーマンスを発揮できないことが起こるかもしれません。そのような状況でも、「まぁ、仕方ないよ。そんなこともあるさ」と思えるのが、自己肯定感が高い人です。

自己肯定感が低い人の潜在意識に共通するのは、「自分はこうあらねばならない(=must)」という強い考えがある点です。

普通の人では決して到達できないようなmustの基準を持っているような完璧主義の人は、どんなにがんばって成長しても、「まだまだこんな程度ではダメだ」と、自分を許すことができません。

そこまで完璧主義ではなくても、状況によって自己否定に陥ってしまう人もいます。恵理さんの場合でみると、健康のときは自分に課したmustの条件(家事をきちんとこなす主婦)を満たすことができたので、自分を肯定できていました。ところが、病気になったとたん、その基準をクリアできなくなり、自分を許せなくなってしまうのです。

人にはmustとwantの両方が存在する

ほとんどの人は意識していませんが、人には「want(to)」と「must」の2つの相反する自分が存在します。

人は皆、まっさらな状態でこの世に生を受け、徐々にいろいろな感情を育んでいきます。物心がついても、しばらくは悲しい、甘えたいというwantの自分しか存在しません。

しかし、両親からのしつけや、社会生活を営むために他者とのかかわりが増えるつれ、「弱音を吐いてはいけない」「もっと努力しなくてはいけない」「立派な人間にならなくてはいけない」という、もう一人の自分、すなわちmustによって行動する自分が作られていきます。

もちろん、mustの考えは人が努力する原動力になるため、必ずしも悪いものではありません。しかし、努力しても報われない感覚が続けば、燃え尽きてしまいますし、自己否定につながることもあります。病気になったら、あるいは人生後半になって心身の衰えを感じ始めたら、一度mustを手放して自分を許さないと、心は悲鳴をあげてしまいます。

皆さんのなかにも、自分を厳しく律することを大切にされている方が多いでしょう。その価値観は、勤勉、努力家、決まりを守る、謙虚など、これまで美徳とされていた考え方とつながっています。しかしその一方で、ときに自分を傷つけることにつながってしまう側面もあります。

また、mustが強すぎて、wantの声がかき消されるような生き方は、やはりつらいのではないかと思うのです。

次回は、どうしたら自己肯定感を高められるのか、wantとmustのバランスについて解説したいと思います。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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