「輝かしい失敗」からイノベーションが生まれる訳 「オランダ発」リスクや失敗をプラスにする方法

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アンチフラジリティーの象徴が、ギリシャ神話に出てくるヒュドラーという多頭の怪物でしょう。首を1つ切り落としても、そこから2つの頭が生えて、どんどん強くなっていきます。

失敗も同じです。失敗は決して愉快なものではありません。お金や時間がかかり、仕事を失ったり、プロジェクトが中止されたり、誰かとの関係を断ち切ったりと、痛みを伴うことは否定できません。

何かをやってみて、うまくいかず、がっかりする結果になっても、よく見れば、そこに新しい学びや示唆がある。そのような新しい視点を持てれば、危機や失敗に直面しても、ヒュドラーとなって学び成長し、アンチフラジリティーを手にすることができます。

「輝かしい失敗」を構成する5つの要素

ポール・ルイ・イスケ/マーストリヒト大学ビジネス・経済学部教授兼同大学「輝かしい失敗研究所」CFO(最高失敗責任者)。1961年オランダ・アムステルダム生まれ。アムステルダム大学で理論物理学と数学の修士号、トゥエンテ大学で理論物理学の博士号を取得。現在、専門はオープンイノベーションとビジネスベンチャリング。理論物理学者としての背景から、ロイヤル・ダッチ・シェルでは上級研究物理学者、ABNアムロ銀行では「ダイアログ・ハウス」でのイノベーション担当上級副社長を務めた経験を持つ(写真:ポール・ルイ・イスケ)

もちろん、すべての失敗を喜ぶべきだ、ということではありません。私は、オランダのマーストリヒト大学にある「輝かしい失敗研究所」の最高失敗責任者(CFO=Chief Failure Officer)ですが、輝かしい失敗と普通の失敗は何が違うのでしょうか。

私たちの定義する「輝かしい失敗」は、価値創造のために周到な準備をし、全力をつぎ込んだにもかかわらず、意図した結果が出せなかった。その一方で、学ぶ機会があった、という状況を指します。

そうはいっても、失敗は失敗ではないか、あるいは、その失敗はどれだけ輝かしいのか、という疑問が生じてきます。そこで、理論物理学者である私は次のような公式を作って、その失敗がどのくらい輝かしいかを測定できるようにしました。

輝かしい失敗=V×I×R×A×L
V=ビジョン(何を達成しようとしたのか)
I=インスピレーション(エネルギーをつぎ込んだのか)
R=リスク管理(リスクにうまく対応したか。リスクは多すぎても、少なすぎてもよくない。リスクが少なければ、機会を逃すことになる)
A=アプローチ(適切に準備しているか。一緒に協力したのか。そこにある知識を生かしたのか)
L=学習(学んだことを応用したり、ほかの人と共有しているか)

この5つのスコアを掛け合わせることで、再現性を持たせ、輝かしい失敗というアイディアを広め、得られた結果や教訓を共有することができます。

自分の輝かしい失敗を語ることや語る人を、みんなで称賛し奨励すべきですが、それが簡単かどうかはわかりません。

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