「輝かしい失敗」からイノベーションが生まれる訳 「オランダ発」リスクや失敗をプラスにする方法

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私がよく引き合いに出すのが、宇宙という物理学の現象です。宇宙の中で目に見えるものは、ほんの一部です。暗黒物質や暗黒エネルギーなど、目に見えないものの存在が宇宙を理解するうえで重要です。

知識も同様で、ほとんどの知識は目に見えないし、話すこともありません。とくに失敗につながっている場合には、あえて話す勇気も出ないでしょう。

しかし、そうした暗黒の知識を無視すれば、99%の知識がそこで消えてしまいます。暗黒の知識という私たちの社会の知的財産に光を当てることで、私たち自身、社会、世の中について理解が深まり、コロナ禍のようなチャレンジにも立ち向かうことができます。

日本の文化は失敗から学びやすいのか?

私は破綻した企業の経営者について研究したことがあります。オランダでは、ほかの国と同様、経営破綻は重大な問題で、周囲から失敗者の烙印を押されます。再起を図ろうにも、「あなたは過去に失敗した」と言われて、支援を受けにくいのです。

しかし、正しく失敗したならば、当然、何かを学んだはずです。そのうえで再びトライし、頑張り続けることが、起業家の素晴らしい特性です。実際に、破綻を経験した後に成功している人を対象とした調査によると、全員が失敗から学んだおかげだと述べていました。

しかし、失敗が許されない、失敗について語ることのできない環境では、失敗から価値を見出すことはできません。

失敗を語るためには、心理的に安心できる環境が必要です。結果に対するプレッシャーが高すぎれば、ストレスを感じて、疲れ果てて燃え尽きたり、不安に陥ったりします。その一方で、プレッシャーが低すぎれば、心理的には安心できても、パフォーマンスは高まりません。

何か達成したいというモチベーションがあり、心理的に安心できる状況であれば、失敗を受け入れて、学び成長することができます。そこで初めて、失敗の価値の成果を目にすることができるのです。

失敗をめぐる環境は、文化や価値観によっても違いがあります。世界的にも著名なオランダの社会心理学者、ヘールト・ホフステードの枠組みを使って分析すると、日本は権力格差がやや高い、オランダははるかに個人主義だというように、各国の文化にはかなり違いがあります。

日本は男らしさと不確実性の回避が強いのですが、これを失敗と照らし合わせると、興味深い組み合わせです。というのは、すべてコントロールしたいが、リスクは少なくしたいという志向性があるからです。それから、日本は長期志向の要素が強いという結果が出ています。学習は将来のためのものなので、失敗から学びやすい環境があるといえます。

世界のどの国でも、私たちには失敗する権利があります。人は、自分の地位を脅かされることなく、何かを試み、経験し、失敗し、学ぶ権利があることを、世界の人権宣言の中に入れるべきことだと提案しています。

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