佃 光博
4月は学生にとって新学期のスタート、3月期決算の企業にとっても新年度のスタートだ。そして新入社員は社会人としての一歩を踏み出す。本欄も4月から装いを新たにスタートしたいと思う。これまでは就活ノウハウを伝授してきたが、少し視点を変えたい。ノウハウではなく、就職の構造を考えてみたい。
というのは、2008年9月のリーマンショック後に企業の採用意識が、かなり変わってきたと考えるからだ。もちろん企業の採用はいつも変わってきた。この10年ではインターネットが不可欠になった。この5年ではWebテストが普及した。2000年代に入り学生の質の低下が意識されるようになって、近年では量ではなく質を問う「厳選採用」が主流になった。そしてリーマンショック後では採用戦略にブレが見られるように思える。そんな変化をここ数回の連載では検証していきたい。そしてその後は、そんな変化に対応する企業にインタビューを試み、採用の先にある人材戦略を探ってみたい。
●日本だけに存在する新卒市場というシステム
日本人は新卒学生を対象にした「就職戦線」になじんでいて、これが当たり前の図式だと思いこんでいる人が多い。しかし世界的に日本のような新卒就職システムはあまり例がない。欧米ではもともと「社会」と「大学」の垣根は低く、働いて学費を貯めて大学に入る、いったん中退して働いた後に再入学する、という例は多い。30代、40代の大学生がいても不思議に思われない文化がある。また、国境を越えた進学も珍しくない。ヨーロッパでは数カ国語を話す人が多く、言語の壁が低いことも理由の1つだろう。自分で大学を選び、就職先も自分で選ぶ。それが欧米の常識だ。選択肢が多く流動性が高い。日本のように新卒情報が氾濫することはない。考えてみれば、欧米のように広く、多文化多言語のエリアでは日本のような新卒市場は成立しえないだろう。
日本の就職システムでは、新卒就職が主流だ。そして学生は溺死しかねないほどのたくさんの情報を得ることができる。まず10月の就職ナビの正式オープンとともに翌々年3月卒業生を対象とした企業の採用活動が始まり、学生のプレエントリーを促す。12月当たりから盛んにセミナーが開催され、4月末に内定シーズンの1回目のピークが来る。
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