(第31回)【変わる人事編】「大卒求人倍率調査」から見えてくる就職の風景

 日本が空前絶後の好況に沸いていた1980年代の後半、民間企業に就職を希望する大学生の数は20万人台後半にとどまっていた。30万人を超したのは1992年卒からであり、1998年卒で40万人を超え、2010年卒では45万人に近づいている。若者が増えたわけではない。18歳人口のピークは1991年の204万人、1992年の205万人。2010年は122万人だから4割も減っている。ところが大学や学部、学科が激増し、学生定員は増え続けた。定員の増大に合わせて大学進学率も劇的に上がった。1990年の大学進学率24.6%に対し、2009年には50.2%と倍増以上となっている。

 大学生の質の低下も大学の急増と進学率のアップに関係している。若者とのコミュニケーションは、人事担当者の深刻な悩みのタネになっている。新入社員をどう教育するかというレベルではなく、どう話せばいいのかという基本で困惑している。怒ったりしかったりしてはだめ。人前では特に気をつけなくてはならない。某企業では入社式に遅刻して入ってきた新入社員に注意したところ、そのまま失神した。学力も劣っているが、それだけでなく精神年齢が低いのだ。いまの高校生は昔の小学生、いまの大学生は中学生、いまの20代は高校生。

 学力の低下については1999年出版の『分数ができない大学生』(東洋経済新報社)が指摘して話題となったが、その頃の大学進学率は38.2%(1999年)。精神年齢の未熟さはまだ問題になっていなかった。

 学力低下の原因は、旧文部省が推進した「ゆとり教育」にあるというのが定説だが、その他にもゲーム、携帯電話とインターネットの普及という環境変化も原因だろう。そして学力だけでなく精神年齢の低下の原因を求めるなら、小中高のゆとり教育だけでなく、大学の濫造も大きな影響を与えているはずだ。

 大学は「高等教育機関」だが、濫造された大学や学部で高等教育は行われていない。入り口でも選抜は行われず、AO入試のように学力試験なしで入れる大学が増えすぎている。そして日本の大学は入学さえしたら、ほぼ自動的に卒業できる。入り口にも出口にも厳しさがない。もちろん真ん中の大学生活も甘い。なにしろ面接で「大学4年間ずっと○○でバイトをし、2年目から店長を任されていました」と話す学生がいるくらいだ。こんな大学は世界にない。世界標準で測れば日本の大学卒業生は、卒業のレベルに達していないといってもいい。

 次回は、リーマンショックが採用に与えた影響について検証してみる。使うデータはリクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」と文部科学省と厚生労働省の「大学等卒業者の就職状況調査」。2つのデータに各種調査を加え、現在の採用状況を検証してみる。

佃 光博(つくだ・みつひろ)
早稲田大学文学部卒。新聞社、出版社勤務を経て、1981年、(株)文化放送ブレーンに入社。技術系採用メディア「ELAN」創刊、編集長。84年、(株)ピー・イー・シー・インタラクティブ設立。87年、学生援護会より技術系採用メディア「μα(ミューアルファ)」創刊、編集長。89年、学生援護会より転職情報誌『DODA(デューダ)』のネーミング、創刊を手掛ける。多くの採用ツール、ホームページ制作を手掛け、特に理系メディアを得意とする。2010年より、「採用プロ.com」を運営するHRプロ嘱託研究員を兼務。
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