佃 光博
前回は、リクルートワークス研究所の『大卒求人倍率調査』をもとに、日本の就職システムについて概観してみた。その起源は1960年代初頭にあり、1980年代に発展し、1990年代後半にWebを取り込んで進化した。これは世界には存在しない独自のシステムであり、だれでも入学し卒業できる大学のあり方が特異なシステムを成立させている。また近年の人事を悩ませている質と精神年齢の低さをもたらしているのは、ゆとり教育の弊害ばかりではなく、1990年代から始まった大学の濫造にも原因がありそうだ。1995年の大学数は565校、ところが2009年には773校。毎年十数校が新設されてきた。
今回は、リーマンショックが採用に与えた影響について検証してみたい。前回も使った『大卒求人倍率調査』と文部科学省と厚生労働省の『大学等卒業者の就職状況調査』を比較してみる。
●リーマンショックに直撃された人材ビジネス
リーマンショックが起こったのは2008年9月で、1年半前のことにすぎない。この年まで日本経済は順調だった。採用の世界も景気が良かった。厚労省や文科省の『大学等卒業者の就職状況調査』によれば、大卒就職率は、氷河期がピークを迎えた2000年3月卒業の91.9%を底に反転している。以来、景気は戦後最長といわれる拡大期を迎え、2008年の就職率96.9%を記録した。久しぶりの売り手市場だ。企業も学生も採用PR業界も、この売り手市場はしばらく続くと考えていたと思う。
2008年4月22日発表のリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2009年卒)」では、「民間企業の求人総数は、昨年より1.5万人増加(+1.7%)の94.8万人となり、調査開始以来最高水準が更新された。一方、学生の民間企業就職希望者数は、44.3万人(+0.7万人、+1.5%)となった。結果、需給バランスである求人倍率は2.14倍となった」と報告している。
求人倍率は2000年3月卒の0.99を底に緩やかに上昇していたが、2005年卒までは1.5を切っていた。ところが2006年1.60、2007年1.89、そして2008年卒は2.14と急にアップした。2009年卒も同じく2.14。1990年代後半からの就職氷河期はようやく終わり、温暖期が始まったのだ。
リーマンショックが起こっても、この幸福感は残っていた。日本の気分は対岸の火事を見るようなノンビリしたものだった。日本はアメリカの金融商品にそれほど手を出していないから安全と考えていた。ところが世界はグローバル化しており、火種は世界中に広がった。
世界的な信用収縮によって日本でも全産業的に冷え込んだ。人材の世界も直撃され、「内定取り消し」が頻出した。新卒よりももっと悪化が顕著なのは、中途採用ニーズの落ち込みだった。人材紹介会社の業績は半年前の半分はいいほうで、2~3割にまで急低下したところも出た。教育研修業界も同様で、人材ビジネス業界は2008年末から2009年初めにかけて最悪期を迎えた。
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