こういった透明性の確保が議論になった背景には、専門家と政治の役割分担の明確化という命題があった。新型インフルエンザの流行時には、厚生労働大臣や厚労省の役人の会見は頻繁に開かれたが、専門家は表の舞台にほとんど立っていない。アメリカのCDC(疾病予防センター)などと比べて、日本では科学的な知見を伝える役割がなかったのだ。
そのことをゲストスピーカーから指摘された総括会議は、総論として「意思決定プロセスと責任主体を明確化するとともに、医療現場や地方自治体などの現場の実情や専門家の意見を的確に把握し、迅速かつ合理的に意思決定のできるシステムとすべきである」と盛り込んだ。専門家の立場から助言し、最終的には政府が決める。その政策決定過程の信頼性を担保するために「可能な限り議論の過程をオープンにすることも重要である」と最終報告書には記されている。
民主党政権下での総括会議ではあったが、自民党政権になっても厚労省としては当然、認識していたはずだ。この総括会議の運営を担い、報告書原案を作成した厚労省・新型インフルエンザ対策推進室長の正林督章氏は、現在は健康局長に就いており、今でも新型コロナ対策の中心を担っている。開示の原則については心得ていたはずだ。
「公開のほうがありがたい」と専門家
この議事録の問題は、これまでも議論になってきた。
「専門家会議の委員側から、このような旨(非公開にすべきと)を主張した事実があるかを教えてください」
今年5月14日の専門家会議後の記者会見で、こんな質問が飛んだ。専門家会議の議事録について情報公開を求めたところ、役所から「率直な意見の交換、意思決定が損なわれるおそれがある」との理由で不開示だったという。
質問に対して、岡部信彦・川崎市健康安全研究所長がマイクを握って答えた。
「それは厚労省のほうのルールなので、厚労省のほうに聞いていただきたい。誰がどういう発言をしたかというのは責任を持ったほうがいいと思うので、できればそういうほう(議事録の公開)がありがたい。(公開してほしくないなど)何ら申し入れることはやっていないです」
つまり、非開示は専門家会議の意思ではなかったことを明かした。
この答弁に慌てたのか、厚労省の担当者が急遽マイクを握った。
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