自粛警察「執拗すぎる相互監視」を生む根本要因 戦中の隣組、戦前の自警団との意外な共通点

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「善意の自粛警察」が行き着く果てにあるものは?(写真:渡辺広史/アフロ)

新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、日本で「自粛警察」が広がった。市民の相互監視とも言えるこの状況に警鐘を鳴らす声も多いが、戦前との比較で危惧を表明する専門家がいる。近代日本の軍事史に詳しい埼玉大学の一ノ瀬俊也教授がその人だ。

「かつて太平洋戦争を遂行させるために作られた『隣組』と共通するところがある」。戦後75年を迎えようとしてもなお、人々の意識が変わっていないという。その核心は何か。一ノ瀬教授に聞いた。

「人の役に立ちたい」欲求

そもそも「隣組」は自然発生的に発足し、機能していた地域住民組織だった。ところが、太平洋戦争が開戦する1年前の1940年、政府の訓令によって正式に組織化される。10戸前後で組織するよう指導され、全戸の加入が義務付けられた。「回報」の回覧による情報の一元化、配給の手続きのための重要な基礎組織として位置付けられた。

隣組の役割について、一ノ瀬教授はこう解説する。

「大きく2つの役割が期待されていました。1つは地方自治の末端組織として、配給などを住民自らに担わせること。もう1つは、政府の方針を国民1人ひとりに行き渡らせること。つまり、国民の自治精神を利用して、戦争遂行を図るために作られたわけです。

戦争になれば、国家の国民生活を隅々まで統制しないといけない。食料などの配給制度は最たるものです。しかし、政府や地方自治体だけで統制をやるのは非常にきつい。そこで隣組を使い、国民の協力を得て統制をやろうとしたわけです。上意下達と下意上達を組み合わせ、ある程度、国民の意見も取り入れて、ガス抜きするような形で戦争の遂行を図っていったところがあります」

一ノ瀬俊也・埼玉大学教授。取材はオンライン(撮影:当銘寿夫)

戦中の隣組と現在の「自粛警察」。どこに共通点があるのだろうか。

「隣組では、戦争を批判するような発言を住民が聞きつけて、憲兵や特高警察に密告する行為はよく見られました。今と共通しているのは、通報する人たちが『お国のため、全体のために』と考え、よかれと思ってやっている点です。いわゆる自粛警察をやっている人たちはそれが行きすぎて、個人の自由や人権を損なう事態を引き起こしている。そのへんがかつての隣組と共通している。『お国のため』という大義名分を得て、人権弾圧などがエスカレートしていくわけですね」

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