6 ホール・アースな問題
ロラン・バルトは写真の登場について、人々が鏡で見るのとは違ったふうに自分自身の姿を見るようになったのは、歴史的にはごく最近のことであると述べている(『明るい部屋』)。フランス人のニエプスによって写真が発明されたのは1827年、まさに近代の真っただ中である。近代的な自我や自己が確固なものになっていくうえで写真は重要な役割を果たした。
人間は宇宙から地球を見るように
バルトの言い方に倣えば、1960年代は人類がはじめて自分たちの住む惑星の姿を目にするようになった時代と言える。それまで望遠鏡で宇宙を見ていた人間が、いまや宇宙から地球を見るようになった。これによって世界の印象がまったく変わった。
ソ連のユーリイ・ガガーリンがボストーク1号で地球を一周し、「地球は青かった」という言葉を残したのは1961年のことだ。同年5月にはアメリカのケネディ大統領がアポロ計画を発表、1960年代中に人間を月に到達させると宣言する。計画は何度かの有人宇宙飛行を経て、1969年7月にアポロ11号が月面着陸したことによって実現する。このときケネディは生きていない。1963年に日米間で実験的に行われた初のテレビ衛星中継で、太平洋を越えた電波にのって送られてきたのはケネディ暗殺の悲報だった。
1957年にソ連が打ち上げたスプートニク以降、多くの人工衛星が地球のまわりを飛びまわり、遠い国のニュースがリアルタイムで送られてくるようになる。おかげで1967年6月、ぼくたちは世界初の衛星中継番組で「愛こそすべて」をうたうビートルズのメンバーたちを目にすることができた。世界は全地球的なものになりつつあった。