スティーブ・ジョブズにとって死は通過点だった アップル製品に漂う「大人っぽさ」と「人間の本性」

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2003年11月29日撮影。アップルの日本初の直営店となった銀座店のオープンを機に来日。この時、病魔に侵されていたかは定かではないがどことなく切ない感じがしていた(撮影:小平 尚典)
アップル創業者のスティーブ・ジョブズ。2011年10月5日の逝去からこれまでを振り返れば、アップルが世に送り出した「iPhone」を軸に世の中はスマホによって、まさに激変した。
いまもなお語り継がれる伝説の経営者であるジョブズの知られざる姿を、若き頃から彼を撮り続けてきた写真家の小平尚典と、あの300万部を超えるベストセラー『世界の中心で、愛をさけぶ』を著した片山恭一がタッグを組んで描いた連載の番外編をお届けします。

アイデアやデザイン、理念は不滅であるかのように

スティーブ・ジョブズが亡くなったのは2011年10月5日、56歳7カ月の生涯だった。すでに10年以上が過ぎたことになる。いまあらためて思うのは、ジョブズにとって死は1つの通過点ではなかったかということだ。終着とか帰結とか、さらには敗北とかいったイメージが、彼の死にはほとんどない。10年という歳月によって、そのことが鮮明になってきた気がする。

稀有なことである。彼が有能なスタッフとともに生み出した製品も築き上げた会社も、この10年間をとおして停滞や凋落とは無縁だった。むしろますます輝きを増し、存在感を高めているように見える。芸術が不滅であるように、ジョブズのアイデアやデザイン、あるいは理念は不滅であるかのようだ。

どうしてすぐれた芸術は不滅なのか? それが究極的な差異であるからだ。モーツァルトやベートーヴェンの音楽を他のもので代用することはできない。だから繰り返し演奏されるほかない。ジョブズが生み出したものにも似たようなところがあるのかもしれない。

ジョブズの膵臓にがんが見つかったのは2003年のことだった。医師はただちに手術を勧めるが、本人は代替療法を試みる。結局、1年後に手術を受けて膵臓の一部を取り除く。ジョブズ48歳。のちに明らかになったところでは、このときすでにがんは肝臓に転移していたらしい。2005年6月、スタンフォード大学の卒業式で15分間に及ぶスピーチを行う。「ハングリーであれ、分別臭くなるな」という言葉で有名になったものだが、このなかで彼はがんと診断され手術を受けたことにも触れる。

おそらく最後の10年ほどの日々を、彼はつねに死を身近に感じながら生きたことだろう。このころからジョブズは、死に向けて周到な準備をはじめているように見える。その1つは、2005年秋にティム・クックをアップルの最高執行責任者(CEO)に就任させたことだ。自身は一歩退いたかたちにも見えるが、実際は残された5年間を、ジョブズはそれまで以上にフルスピードで走り抜ける。

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