スティーブ・ジョブズにとって死は通過点だった アップル製品に漂う「大人っぽさ」と「人間の本性」

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こうした大人っぽさは、おそらくジョブズが持ち込んだものだろう。彼のなかには絵師と版元がいた。芸術とビジネスが同居していた。そんなジョブズの資質に、浮世絵は強くアピールしたはずだ。もともと浮世絵が西洋に広まったのは、日本から送られてきた陶磁器のクッション材に使われていたことが発端だったという。日本の消費者にとって浮世絵版画は、北斎や広重といえども最終的に紙屑だったのである。このしぶとさ、したたかさにも、ジョブズは惹かれたのではないだろうか。

紙屑同然の扱いを受けても人々を感嘆させるもの。ポケットからティッシュ・ペーパーやハンカチのように取り出してなお輝くもの。どこでどんな使われ方をしてもへこたれない生命力をもつもの。iPhoneとはまさにそのようなプロダクトではなかったか。

もう1つ、アップルという会社が圧倒的に成功したのは、ジョブズというカリスマ的なリーダーのこだわりが、良くも悪くも人間の本性に沿ったものだったからだ。それはひとことで言うと、「苦しみを避けたい」ということである。人は苦しみを消してくれたり、軽くしてくれたり、やわらげてくれたりするものを無条件に求める。イエスとは、まさに苦しみを癒やしてくれる人だった。だから2000年も慕われつづけているのだろう。

人間の本性に正確に照準を合わせていた

現在、ぼくたちの社会で顕在化している苦しみの1つは、がんのような病気である。だから医療にたいするニーズは膨大にある。つまり無尽蔵のビジネスになりうる。アルコールやドラッグやセックスも同じである。合法であろうと違法であろうと、この苦しみを取り去ってくれるものにはお金を出す。さまざまな娯楽も、やはり苦しみを忘れさせてくれるものであったり、見えなくしてくれるものであったり、麻痺させてくれるものであったりする。

ジョブズが築き上げたビジネスは、意図的かどうか知らないが、こうした人間の本性に正確に照準を合わせたものだった。ウクライナ問題にほどよく心を痛め、SDGsにも無関心でない自分を確認したあとは、スポーツやエンタメ、有名人のゴシップなど、お手軽な情報で気分を晴らす。愛くるしい猫の動画や気楽なツイートに心の憂さを忘れる。漫画を見たり映画を鑑賞したりすることで、考えたり悩んだりする時間を切り詰める。そのためのアイテムを、ちょっと大人っぽい意匠のもとに、ジョブズたちは提供しつづけたと言える。

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