「イタリアならではの、ステイホームの工夫とかって、ありますか?」と日本の人からよく聞かれる。パン作り? エクササイズ?と考えてみて、とくにイタリアらしいと思いつくのが「バルコニー越しにご近所の人とおしゃべりしたり、歌を歌ったり、食事を一緒にしたりすること」だ。
同じ並びのお隣としゃべるのではなく、中庭を挟んだ別棟の人や、上下階の人たちが何家族も一緒になって大声でおしゃべりをしたり歌ったりするのだ。もともとイタリア人はそういうことを平気でできる、陽気で人懐こい人たちではあるけれど、ロックダウンで厳しい外出規制が敷かれた3月中旬からの約2カ月の間、人々は寂しくて人恋しくてバルコニーに出た。
スマホやパソコン越しではない生の声を交わしたい、3月の冷たい風もいとわず狭いバルコニーにテーブルとイスを持ち出して、人を見ながら、人を感じながら食事をしたい、そんな人が多かったのだと思う。
そういえば散歩中に出会う人も、満面の笑みで「チャオ!」「ボンジョルノ!」と声をかけてくる人がいつもよりも多かったように思う。本当は挨拶だけでなくて、もっと話したいんだとでもいうように。反対に、目を合わせただけで感染してしまうとでも思っているのか、よそを向いて急いで離れていく、そんな人も多かったけれど。
コロナがくれた「ご近所の再発見」の機会
7月19日現在、イタリアでは感染者数もぐっと減り、新規感染者は219人。死者数は3人と、感染拡大が始まった2月以来の低い数字となり、ほぼコロナ以前と同じ暮らしが戻ってきた。外出はもちろん、EU内であれば自由に旅行にも行ける。つらかったロックダウンの日々を取り戻すかのように、毎日1000人近くの人が亡くなった恐ろしい日々の記憶をなかったことにするように、海や夜遊びで弾けている人も多い。
でもそんな今、ロックダウン中に発見した「コロナがくれた悪くないこと」を忘れたくない、そう思っている人は少なくないはずだ。週1回の買い物で工夫して料理をして食材の無駄を出さないこと、できるだけテレワークにして家族と過ごす時間を大切にすること、などいろいろあるだろう。
「ご近所の再発見」も、そんな1つだと私は思う。
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