怒りすぎてすべてを失う恐れあり 第5回 「数値化テクニック」で怒りのサイズを知ろう

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前回は、「第一次感情」「持続する」といった怒りの性質を理解しておくだけで、無用な論争を避けられるし、両者の間に溝や誤解も生まなくなることを説明した。こうした怒りの感情の性質を考慮して、30種類ほどあるアンガーマネジメント・テクニックは設計されている。今回は、「怒り過ぎない」ことに有益なアンガーマネジメント・テクニックのひとつを紹介したい。

口論から殺人未遂へ

2013年6月、JR京浜東北線某駅のホームから男性が突き落とされた事件があった。会社員である容疑者が犯行に及んだ理由――それは、腕が当たったことを被害者の男性から注意されて口論になったから。殺人未遂容疑で逮捕となった。真面目に働いてきた人でも、一瞬の強すぎる怒りを制御できないことで、多くのものを失ってしまう。

 2014年1月、東京都内の会社に放火した疑いで、入社11年目の所属社員が逮捕された。この会社では、前年4月から放火とみられる火事が7件相次いでいて、警視庁が関連を調べていた。この社員は7件全ての犯行を認めていて、さらに「会社の方針などに嫌気が差して会社を困らせようとしてやった」と供述したという。

 前回第4回で書いたが、「嫌気」というネガティブな「第一次感情」を自分の「心のコップ」に溜めすぎ、適宜上手に抜かなかったことが、強く歪んだ形で怒りを表すことになる。一瞬の強すぎる怒りを制御できないことも大事故になり得るし、生まれた怒りを成長させすぎると正常な感覚を麻痺させてしまう。

 怒りをそのまま表現すれば状況はより悪くなるだけなのだが、怒りは万能感から来ることもあるので過ちが起こる。万能感とは、自分が強くなったような錯覚、この世は自分の思い通りになるというような思い込みだ。不満と万能感もリンクする。自分の思い通りにならなかったら不満を持つからだ。無意識下で、万能感、不満、怒りがミックスされたら危険である。

 上記2例は、冷静になって「取り返しのつかないことをしてしまった」と反省したところで許されるレベルの問題ではない。無意識であっても、怒りの感情を犯罪レベルまで転化(点火)させてはならないのだ。不満を持ってもいい。しかし、不満の解消方法を決して誤ってはならない。私たちは、決して怒りを無くすことはできないが、自らの怒りの感情と「上手につき合っていく」ことが常に求められている。

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