ひとつ目は、そのブランドのものを所有することで、ブランドがもつ“信用”を身に着けることできるからです。たとえば、ルイ・ヴィトンは、かつてフランス王室の御用達ブランドで、いわゆる“お墨付き”でした。ですから、かつてヴィトンのトランクを所有するということは、特権階級であることを示していたわけです。
あるいは、現代の場合、お墨付きのないブランドでも、きちんとしたポジションを確立したブランドには、似た効果があります。仮にシャネルと想定しましょう。たとえば、ある人がシャネルの服を着ています。”シャネルの服を着ている”、という情報を受け取った相手は、この人はお金持ち(ブランド=経済的余裕がある)、この人はおしゃれ(シャネル=おしゃれ)、などの言語化されていない情報を受け取り、服をみて、ある程度判断します。実際がどうであれ、服は、着ている人をよく見せることができますし、ある意味で社会的信用を与えることも可能です。そして実際に、着ているものを替えることで、お店などの対応が変わったりすることはよくあります。
2つ目は、服を買うまでの過程において、美しい空間で、すばらしい接客やサービスを受けることができる、というのがあります。ブランドの世界観を感じながら心地よい体験をすることを、快感や幸福感とよんでもいいでしょう。それが、ブランドのものを手に入れるプロセスの一つの醍醐味です。
3つ目は、その服を着ると、自信を持つことができます。目には見えませんが、高級ブランドのみならず、デザイナーや職人が魂をこめて作った本物の服には、オーラがあります。前回も、本物の服が持つすばらしさを述べましたが、そういう服を着ることで、人はパワーを与えられます。一張羅の服を着ると、身が引き締まったり、気持ちが高揚したりすることはありませんか?それは、まるでみえない鎧を身に着けているようなものなのです。
こういうことを含めたすべてが、”ブランドの服を着る”(※注)ということです。そして、これらの目に見えないものこそが、人々がブランドに魅了され、引き付けられる、本当の理由だと思います。
※注:ここでいう”服を着る”という表現は、スタイルを完成する上で必要なアクセサリーや小物類といったもの全てを含み、所有するという包括的意味で用いています。
ヨーロッパ服飾史 徳井淑子著 河出書房新社
本文内でお話したような服飾史に興味のある方に、入門書としてオススメしたいのが、こちらの1冊。既にご退職されましたが、お茶の水女子大学 元教授・徳井先生の服飾史の本です。以前、講義でお世話になりましたが、小難しい本が多い中、こちらは絵を豊富に用いてとてもわかりやすい本です。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら