コロナ禍のロシア、7月1日正念場のプーチン モスクワはピークアウトも地方に感染広がる

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ロシアは一時、1日の感染者数が1万1000人を超えた。現在の感染者数の累計はアメリカ、ブラジルに続いて第3位という不名誉な地位にある。それでも1日の感染者数は8000人を下回るようになり、減少傾向が見えている。これは、一時、全体の3分の2を占めていたモスクワで大幅に減少したからだ。

逆に地方の感染者数はあまり減少していない。極東や北極圏の油田地帯など最近増加傾向が見える地域もある。ユーラシアといわれる広大な国土のあらゆる地域に感染が拡大しただけに、全体として抑え込むのはなかなか難しい。ヨーロッパ、イラン、中国と接するロシアの感染状況が収束に向かうことはユーラシア大陸の公衆衛生にとっても重要という状況だ。

7月1日、憲法改正の国民投票が焦点に

プーチン大統領は全国的に感染状況が収束しない中で、6月24日にモスクワと主要な都市で第2次大戦の戦勝記念軍事パレードの実施に踏み切った。そして7月1日には憲法改正の全国投票を行う。どちらも全国規模の行事となるが、感染を拡大する恐れもある中での強行だ。

プーチンにはこれ以上引き延ばすことは政治の主導権を失いかねないという危機感があったのだろう。憲法改正の全国投票については、プーチン大統領への信任投票という性格を薄め、「ロシアを社会的な国家とする」というスローガンに変えた。年金や医療の充実を憲法に明記して、新型コロナウイルスの感染拡大で揺らいだ政権への信頼を取り戻そうと考えているのだろう。

ただこれまでに見られない動きも見える。戦勝記念日の軍事パレードの実施を第2次大戦の激戦地クルスクやオリョールら20近い地方の知事が感染防止を理由にさらに延期したのだ。垂直統治システムといわれるプーチン体制の下では異例なことだ。

現在のロシア憲法は1993年当時のエリツィン大統領と最高会議の激しい対立の中で、最高会議が戦車によって制圧されるという血の歴史を経て国民投票で成立した。しかし投票率はわずか54%、賛成58%、大統領制に基づく民主的な憲法だがとてもロシア全国民が賛同した憲法ではない。プーチン大統領は自らの手で改正した憲法を圧倒的な投票率と得票率で成立させ、国民の祝福を得たかったのだろう。プーチンは6月23日、「投票への参加と支持によって憲法は国民のものとなる」と呼びかけた。

しかし反プーチン派は新型コロナウイルスの感染拡大の中で満足な投票監視を行えない国民投票の正当性を早くも疑問視している。投票率、得票率ともに60%を超えるかどうかは微妙である。自らが主導権を握り、2024年に向けて動き出すはずだった憲法改正が、プーチン体制が流動化するきっかけとなるかもしれない。

石川 一洋 ジャーナリスト

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いしかわ いちよう / Ichiyo Ishikawa

NHK解説委員。近畿大学客員教授および総長特別補佐。1982年東京大学文学部ロシア語ロシア文学科卒。同年NHK入局。秋田、青森の放送局を経て、1988年報道局取材センター国際部記者。1992~96年モスクワ支局、96年から国際部デスク。1999年のキルギス日本人拉致事件や2001年の911同時多発テロ以降のアフガン北部タジク取材などを指揮。2002~07年モスクワ支局長。2007年NHK解説委員、2010年NHK解説主幹。2017年NHK退職後も解説委員として「時論公論」、「おはよう日本・ここに注目」「キャッチ!世界のトップニュース」に出演中。ロシア・旧ソビエト連邦、安全保障などの専門家として講演多数。東京大学EMP講師、サンクトペテルブルク経済フォーラムやウラジオストク東方フォーラム等のモデレーターも務める。

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