コロナ禍のロシア、7月1日正念場のプーチン

モスクワはピークアウトも地方に感染広がる

その彼が中央政界に登場するのは2005年、プーチン大統領が大統領府長官に抜擢したときである。大統領府長官とは、日本でいえば官房長官、首相と同等の重責で政権の要石だ。ソビャーニン氏はプーチン大統領からメドベージェフ大統領への移行プロセスで主要な役割を果たし、メドベージェフ大統領就任後は、プーチン首相の下で副首相兼政府官房長官を務めた。

当時のモスクワ市長ルシュコフ市長がメドベージェフ大統領と対立して退任に追い込まれた後、2010年にモスクワ市長に任命されている。大統領による任命市長だが、その後、反プーチンの候補を含む対立候補を退け、2度の市長選挙で勝利した。クレムリン中枢の動きを熟知しつつ地方政治の経験もある老練な政治家だ。大統領に仕える官僚ではなく政治家としての本能がソビャーニンを動かしたのかもしれない。

反クレムリン的な独自の放送で知られるモスクワのラジオ局エホモスクワの著名なジャーナリスト、ベネディクトフとラトゥイニナがソビャーニンを「住民の命を守ることを優先して具体的な行動をとった」と激賞しているのも異例なことである。

記憶のリストに刻まれた高齢の医療従事者たち

ロシア語で“スピソク・パーミャチ”。「記憶のリスト」というサイトがある。

ロシアでCOVID-19との戦いで亡くなった医者や看護師など医療従事者のリストである。公式のリストではない。亡くなった同僚の記録を残すために医療従事者が作ったページだ。

6月23日現在、リストには487人の名前が掲載されている。胸が痛むのは高齢の医療従事者が多いことである。ロシアでは医者を含めて医療従事者の給与は恵まれているとは言い難い。年金受給年齢になっても働き続ける医者や看護師は多い。モスクワでは設備の整った総合病院ではなく、地域の診療所でそのような高齢な医療従事者が働いている。院内感染が、そうした診療所で起きて、高齢の医療従事者が犠牲になっているのだ。

一方、地域で見ると医療従事者の死亡者が異様に多いのはロシアの最南部コーカサス地方のダゲスタン共和国である。このリストに載っているだけで53人いる。モスクワ、モスクワ州に次ぐ数だ。ダゲスタン共和国はプーチンにとって特別な地方だ。首相に任命された1999年7月、チェチェンからのイスラム過激派の勢力をここで押しとどめ、大統領への道を歩む第一歩となった。

今はクレムリンから内務省出身の側近ワシリエフを共和国の首長として送り込んでいる。さまざまな民族がモザイクのように絡み合い、汚職が横行して発展の遅れたダゲスタンをクレムリン直轄で発展させようとしたのである。

しかしクレムリンからの代官は新型コロナウイルスの蔓延には無力だった。現地の宗教指導者はプーチンに「統計の数字には家で死亡した数は含まれていない。病院は患者であふれている。医療従事者を守る防御服も足りていない。感染を恐れて医療従事者も治療をしり込みしている」と訴えた。ロシア南部の要石ともいえる要衝で医療崩壊が起きていたのである。

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