テルモ社長が明かす人工肺「ECMO」増産の舞台裏

コロナは医療機器「公定価格」見直しの好機

新型コロナウイルスに感染し、重篤な状態にある患者が中国・武漢の病院の集中治療室でECMOにつながれて治療を受けている。写真は2020年4月に撮影(写真:Avalon/時事通信フォト)
新型コロナウイルスの治療薬の開発に時間がかかる中、重症患者を治療する“最後の砦”となっているのが体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)だ。人工呼吸器は患者の肺を活用するが、ECMOは血液をいったん体外に取り出し、酸素を加えて体内に戻す装置だ。人工呼吸器と違い、患者の肺の活動を休ませることができる。
テルモはそのECMOの販売で国内シェア7割を占める。同社は新型コロナウイルスの感染拡大からわずか数カ月のうちに、生産能力を平時の約3倍に引き上げた。ただ、ECMOを供給を増やしても、医療現場で装置を使いこなせる医療従事者は不足しており、コロナ第2波に備えた課題も明らかになっている。
5月25日に緊急事態宣言が全面解除されたが、コロナウイルスの再拡大への備えをどうすべきか、また、今後の医療機器業界はどうなるのか。テルモの佐藤慎次郎社長に聞いた(インタビューは5月15日にリモート形式で実施)。

1月にはECMO増産に着手

――ECMOの増産はいつ、どういう手続きで決まったのですか。

われわれは体温計や消毒液、輸血など当社のベーシックな商品が新型コロナウイルス対策に貢献できると考えており、治療分野についてはフィールドが違うと思っていた。

しかし、中国・武漢で流行が拡大し、重症患者を治療する「最後の砦」として肺機能を代替できるECMOが必要になるという話が出始めた。その後、日本でも重症患者が一気に増加したことを受け、国や医療機関からは「医療崩壊が起こるのを防ぐためにできる限り早めにECMOの台数を確保しておくべきだ」という議論が起こった。当社も1月にはすでに部材の調達を開始し、ECMOの増産に着手した。

――増産体制はすぐに構築できましたか。

ECMOは、人工肺など患者ごとに使い捨てる消耗品と装置本体を組み合わせて使うものだ。消耗品の部分については、緊急用だけでなく開胸手術用のものも製造しており、ストックもあり、量産する能力を持っていた。

一方、装置本体は重症患者向けだ。普段それほど頻繁に使われるものではなく、生産能力が限られていた。しかも部品点数が数百点に及ぶため、調達先が多様で、増産は簡単ではなかった。

人の命に大きく関わる医療機器は薬事承認された製造体系や設計の中で製造しており、そのことで安全が担保されている。ある部品がないから他の部品に替えるということができず、苦しかった。

だが、緊急時なのに1~2年かけて設備投資をして増産体制ができあがっても後の祭りだ。部品調達先や従業員の協力を得て、追加の設備投資なしに平時の生産能力の3倍近い、数カ月あたりで100数十台という生産体制を3月に構築できた。

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