「日本はPCR検査の数が少ない」「PCR検査を拡大せよ」との批判の声が高まり、政府はPCR検査数を1日8000から1万5000に増やすとしたが、それでも実際にはなかなか増えなかった。安倍首相は5月4日の記者会見では「地域の医師会にもご協力をいただきながら、全国で20カ所、東京で12カ所のPCRセンターを設置」「東京などの大都市圏を中心に対策を徹底していきたい」と述べた。しかし、PCR検査については多くの難しい問題のあることが指摘されている。
そこで、国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長の西村秀一医師へのインタビューを行った。ウイルスセンターは国内では数少ない臨床ウイルス学の研究施設であり、全国の医療機関から依頼を受け、ウイルス分離や血清学的検査を行っている。PCR検査の現場をよく知る立場からの問題提起である。「感染者数をごまかしたいから、政府は検査しない」という話がSNSなどでは広まっている。だが、現場の話からはそうした見方とは別の厳しい現実が見えてくる。
特効薬がない中で、重要なのは命をつなぐ治療だ
――PCR検査では偽陰性(感染しているのに検出されない)、偽陽性(感染していないのに検出されてしまう)の問題があって、わかることには限界があるとおっしゃっていますね。
検体採取の仕方がまずいと「ある」ものも「ない」ということになる。だからPCR検査をやって陰性だから安心だということにはならない。職場から「陰性の証明を持ってこいといわれた」という話があるが、そのときに陰性でも翌日に陽性になることもある。つまり、検査を受けた人にとって「陰性」という結果の使いみちはないんです。
PCRの感度が高すぎることによる弊害もあって、偽陽性の可能性もある。PCR検査は検体内のウイルスの遺伝子を対象にしている。本来の感染管理では生きているウイルスの情報が必要だが、それを得ることができないためだ。そうすると、ウイルスの死骸にたまたま触れて鼻をさわったというようなときも陽性になりうる。本当に陽性であっても、生きているウイルスではなく人に感染させない不活性ウイルスかもしれない。
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