厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症についての「相談・受診の目安」を緩和する。地方自治体向けの通知文書(事務連絡)で、帰国者・接触者相談センターに相談する際の目安の一つにしていた「37.5℃以上の発熱が4日以上続く(場合)」との記述を削除する。
呼吸困難や倦怠感、高熱などの強い症状がある場合や、高齢者であったり糖尿病などの基礎疾患がある人については、新型コロナウイルス感染の有無を調べるためのPCR検査実施を今までよりも幅広く認める。
これまで日本では、保健所を中心とした検査や、病院での入院患者の受け入れ体制に制約があることを理由に、PCR検査の対象は重症者や感染が確認された人の「濃厚接触者」などに限定されてきた。今回、こうしたやり方を改めることで、PCR検査の間口を広げる。
厚労省が見直しに向けて重い腰を上げた背景には、PCR検査を受けられずに病状が悪化するケースが報道され、深刻な社会問題となっていることがある。
検査を受けたくても受けられない患者が「門前払い」されている現実を、実例を通じて見ていこう。
肺炎でもPCR検査を断られた
取材に応じたさいたま市在住の男性Aさん(63歳)は、「検査を受けられないまま自宅で亡くなった人もいると報道で知った。私も紙一重だったのかもしれない」と自身の経験を語った。
Aさんがだるさなどの違和感を覚えたのは3月22日。翌日から37.5℃を上回る熱が2日にわたって続いた。心配になったAさんは埼玉県が設置した「新型コロナウイルス感染症県民サポートセンター」に電話で相談したものの、37.5℃を超える発熱の期間が4日以上続くという相談の目安に満たないことから、「とりあえず様子を見ましょう」と言われた。
その翌日に熱は37.5℃未満にいったん下がった後、3月27日にはふたたび38℃台に上昇。Aさんはもう一度サポートセンターに電話したものの、今度は「肺炎の症状がないと検査対象にはなりません」との説明を受けた。このとき、Aさんは今まで経験したことのない倦怠感があり、体中に痛みを感じていたが、その説明を受け入れるしかなかったという。
翌28日になると、周囲で深刻な問題が持ち上がった。趣味のサークルで一緒に活動していた70代の女性が救急搬送され、新型コロナウイルス陽性と判定されたのである。さらに同じサークルのほかの2人も新型コロナの陽性が判明した。「ただ事でない」と感じたAさんだったが、サークルが所在していた東京都の保健所から「濃厚接触者には当たらない」と判断されたため、このときもPCR検査にはつながらなかった。
体調が悪化していたAさんはさいたま市の保健所に電話をかけた。ようやくつながったのは、最初に電話をかけてから2日目の4月2日の午後。「25回目にしてようやくつながった」(Aさん)というが、電話口で対応した女性はやさしい口調ながら、「(37.5℃以上が4日以上続くという)条件を満たしていません」というばかりで、PCR検査の実施について首を縦に振ることはなかった。
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