新型コロナPCR検査、「門前払い」は解消するか 検査難民生む「目安」は撤廃されても問題山積

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「相談は電話のみで承る」とする、さいたま市保健所の張り紙。Aさんは25回も電話をかけ続けたが、PCR検査を受けることはできなかった(撮影:筆者)

日本医師会で新型コロナウイルス対策を担当する釜萢敏・常任理事によれば、PCR検査が必要と判断されながらも保健所などの検査実施につながらなかった「不適切事例」が、26都道府県の医師会から2月26日から3月13日までの間に290例も報告されたという。

「その理由をつぶさに調べたところ、保健所の業務が多忙すぎて、PCR検査を適切に実施することができていないことがわかった」(釜萢氏)

そうした現状を危惧した日本医師会が都道府県医師会や郡市区医師会などに働きかけたことで設立が進められているのが、地区の医師会に所属する開業医がPCR検査を実施する「地域外来・検査センター」だ。これは、保健所を介さないバイパスルートでの検査の取り組みだ。

釜萢氏によれば、「ゴールデンウィーク明け以降、全国に取り組みが広がっていくことが期待される」という。さいたま市や都内でも、検査センターが立ち上がりつつある。

実施件数は先進国中で最低レベル

PCR検査は新型コロナウイルスの患者を見つける役割を果たしている。検査が十分に行われないと、ウイルスに感染した患者が隔離されないまま日常活動を続けることになり、市中感染を引き起こしかねない。適切な診断に基づく治療が行われなければ、患者本人の生命の危機にも直結する。

政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長は、「日本は10万人当たりのPCR検査数および検査の絶対数のいずれにおいても、先進国の中で最も少ない国の一つだ」と認める。

尾身氏によれば、日本ではSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の感染拡大を水際で防いだ成功体験もあり、「PCR検査の体制を他国のように拡充しようという機運にならなかった」という。「そうした中で保健所を中心とした限られた検査のリソースを重症患者に振り向けてきたが、現状はもどかしい」と尾身氏は本音を吐露した。

3月下旬以降、感染者数が全国規模で急増していくとともに、検査体制の遅れによる弊害が鮮明になってきた。

安倍晋三首相は「1日当たりの検査能力を2万件に引き上げる」と緊急事態宣言を7都府県に発令する前日の4月6日に表明したが、1カ月が経過した現時点でも検査能力は1万3000件程度、実施件数に至っては、最多でも1日当たり9000件程度にすぎない。

そうした中で検査拡大を阻む元凶の一つとされてきた「37.5℃以上の発熱が4日以上」という事実上の基準が撤廃されるのは理にかなっている。もっとも、それだけで検査件数の増加を阻むボトルネックが解消するわけでもない。民間の検査機関や大学の施設の活用のみならず、感染を防ぐためのマスクや防護衣の不足解消など、やるべきことはあまりにも多い。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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