テルモ社長が明かす人工肺「ECMO」増産の舞台裏 コロナは医療機器「公定価格」見直しの好機

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――国際競争力を高めるためには何が必要でしょうか。

今後議論される可能性のある問題の1つは償還価格だ。医療機器は、国が公定価格(保険償還価格)をつけているが、中には(公的価格が)安すぎてメーカーが生産を続けられないと言われている商品もある。

ECMOも今回は陽の目を見たが、何千とある商品の1つであり、ビジネス的に魅力のある商品というわけではない。人の命に関わる商品に関しては企業が生産を続けられなくなるほど価格が低いと、国家安全保障上の問題になる。今回はそういうもの(保険償還価格)を見直すチャンスだ。

医療機器に価格低下圧力も

――ECMOや体温計のほかに、コロナ禍で注目された医療機器にどういう影響がありますか。

多くの医療現場では待機症例に回せるような手術はなるべく後回しにしようとシフトしている。カテーテル手術も緊急性の高いものから、そうでもないものまでさまざまだが、4月からは世界的に需要が減っている。

5月くらいまではその傾向が続きそうだが、中長期的にどうなるのかはこの1、2年を見定めていく必要がある。医療機関の経営は苦しくなっており、医療機器の価格低下圧力が生まれてくる可能性もある。

質的な変化が起きる可能性もある。もともと医療経済性への配慮や、データ化やAI(人工知能)などデジタル技術の利用、遠隔医療を進めようという動きはあったが、(コロナ後は)今まで以上にスピード感が増す可能性がある。カテーテル治療の中でも、入院を要するようなものや当日帰れるようなものなどいろいろある。われわれは入院日数を減らすような症例を推奨しており、そのための商品を多く手掛けている。今回、入院を短縮することがいろんな意味でメリットがあるということが再認識されれば、われわれがやってきたことが評価されるかもしれない。

さらに、これから重要になるのは機器ごとの使いやすさだけでなく、病院自体の感染症対策が機能しているかなど、病院トータルでの防衛力のレベルアップだ。そのためには医療従事者の教育も必要だが、それは医療機器メーカーの責任でもあり、他社と差別化できる部分でもある。

われわれが培ってきた製品プラスアルファの部分やサービス機能まで含めて、病院や医療従事者の役に立てれば、ポストコロナ時代にテルモの役割がさらに大きくなるのではないか。

田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。報道部、『会社四季報』編集部を経て、現在は会社四季報オンライン編集部。食品業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、ドローン、医療機器など。趣味は東洋武術。

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