セパージュ時代の到来(4)絶頂:国際展開《ワイン片手に経営論》第18回

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■ロバート・モンダヴィの成長要因

 株式公開によって資本市場から資金を調達し、世界中にその影響力を広めていくロバート・モンダヴィ。イタリアのルーチェ、そしてチリのカリテラの事例を見てきましたが、いずれも、セパージュ主義的ワイン造りがその根本思想にあります。ワインは土地に紐づくのではない。ブドウこそ重要なのだというセパージュ主義の視点でみると、世界にはまだまだ潜在性のある未開拓の産地が多くあり、このような産地をロバート・モンダヴィは市場から調達した資本力で、席巻していきました。

 株式公開当初、「米国市場に限って見ると」と控えめに考えていたロバート・モンダヴィですが、大きな成長を遂げるためには、毎年より多くのブドウを確保していかなければなりません。しかし、一人で面倒を見ることが出来るブドウ畑の広さに限界がありますし、買収によって傘下に数々のワイナリーをおさめようとしても、ワイナリー・オーナーにとっては、安定した収入が見込めるわけでもなく、また一国一城の主で自分の思いのままにやっている地位を失ってまで買収に応じようとはしないでしょう。

 しかも、1990年代、米国は再びワインブームが到来していたので、なおさらです。需給バランス的にもブドウの確保は困難なわけです。ブドウ畑を確保できなければ、生産量を増やすことは限定的になり、売上げを増やすことも自ずと限界があるということになります。

 一方、海外に目をむければ、チリのようにブドウが余っているところがありますし、フレスコバルディのように国際的に認められつつあるメルローといった品種に興味をもつワイナリーもあるため、事業機会が存在するというわけです。あとは、この事業機会に資本を投下していけば、自ずと成長するということです。セパージュの流動性と資本の流動性のタイアップが、成長を大きく加速させるのです。

 一見向かうところ敵なしに見えるセパージュ主義。しかし、実は万能ではありません。ロバート・モンダヴィは、この国際展開の中で、挫折を味わうことになります。次回は、そのお話をしてみたいと思います。
*参考文献 
ロバート・モンダヴィ、『最高のワインをめざして ロバート・モンダヴィ自伝』、早川書房
Harvard Business School, “Robert Mondavi Corporation: Caliterra (A)”
Fig 1: Harvard Business School, “Robert Mondavi and The Wine Industry”, and Harvard Business School, “Robert Mondavi Winery”
Fig 2: Organisation Internationale de la Vigne et du Vin
Fig 3: Wine Institute

《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年11月26日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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