ワイン造りの思想 その3 セパージュ(品種)主義《ワイン片手に経営論》第14回
■セパ-ジュ主義とは何か
「その変わりようのはなはだしさは、伝統ある産地のワインが、これほど一気にイメージの違うものへ生まれ変わってよいものか疑問を感じてしまうほどのものであった。…(中略)…ワイン醸造における科学の進歩は、風土を超越するものではないかという思いに、強く駆られた」(麻井宇介著、「ワインづくりの思想」、中公新書)麻井宇介氏は、メルシャンの元醸造責任者です。残念ながら2002年に他界されてしまいましたが、セパージュ主義的発想により、日本でも美味しいワインが造れるかもしれないという夢と希望を与えてくださった方です。実際に、メルシャンが長野県で生産する「桔梗ヶ原メルロー」というワインは、値段はやや張るものの、とても質の高いワインで、こうしたワインが造られるようになったのも麻井宇介氏の功績と思います。
世界に眼を向けると、「美味しいワインは、フランスでしか造れない」という「テロワール主義」に風穴をあけたのが米国のパイオニアたちでした。こうしたパイオニアは、アンドレ・チェリチェフ、マイク・ガーギッチ、ワレン・ウィニアルスキーといった醸造技術者です。また、その後、米国のワインをグローバルにした代表的な貢献者が、ロバート・モンダヴィでした。
“Good grapes make good wines.”
この言葉は、私がアメリカに留学していた時に、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーを訪れた時に聞いた言葉です。“Good land”とは言わずに、“Good grapes”といったのは、まさに「セパージュ主義」を一言で表したものに他なりません。
高貴種ブドウを使って、技術を駆使すれば伝統的なフランス・ワインに引けをとらないワインを造ることができることを実践する人たちが現れたのです。彼らが使った技術はもともと、フランス・ボルドー大学のエミール・ペイノー教授が発端ですが、これらの技術をカリフォルニア大学ディヴィス校とともに、研究を重ね、セパージュが、ワインの質の決定要因であることを示唆する実験を繰り返していきました。
トピックボードAD
有料会員限定記事
キャリア・教育の人気記事