ワイン造りの思想 その3 セパージュ(品種)主義《ワイン片手に経営論》第14回
■科学の力で高い質を生みだす
セパージュ主義的ワイン生産において、重要なポイントは、大きく三つあります。1.種子の入手
2.種子にあったテロワールの選択
3.できるだけブドウ本来の美味しさを引き出す生産技術
これらの三つのポイントが揃えば、セパージュ主義的ワインは、世界に通用する品質で生産される可能性をもっていました。そして、こうした素地をそなえていたのが、米国だったというわけです。
まず一つ目のポイントですが、米国には醸造学を専門とするカリフォルニア大学ディヴィス校が存在していました。現在でも醸造学を学ぶならボルドー大学か、ディヴィス校かという二大巨頭です。このディヴィス校において、実際にフランスの銘醸地で使われているブドウのクローンを作り、これらのクローン種子がカリフォルニアで植えられるようになりました。セパージュ主義的観点からみると、これは、宝を得たも同然です。種子がなければ、何もできませんが、種子さえあれば、あとは科学の力でもって、さまざまな問題を解決していけば、質の高いワインが造れる可能性が与えられます。
種子が手に入ると、次に、その種子をどこに植えるべきかという問題が出てきます。それが、二つ目の「テロワールの選択」です。この分野でも、ディヴィス校のウィンクラー博士が、1930年代に行なった「ワイン産地の気候区分」の功績に触れないわけにはいきません。ブドウの生育期である4月1日から10月31日までの7カ月にわたって、カリフォルニアの各地における温度を毎日積算し、この積算値の高低を大きく五つに分類したものです。
この値とヨーロッパ各地で同様に積算した値を比較し、カリフォルニアのどの地域がヨーロッパのどういった地域に近いのか、マッチングしたのです。たとえば、「フランスのボルドーに近いのは、カリフォルニアのソノマバレーである」といった具合です。ソノマバレーに植えるべきブドウ品種はボルドーで植えられているカベルネ・ソーヴィニョンやメルローに違いないと推測できます。このように、どこに最適な品種を植えるべきかを科学的に考察していったわけです。
種子が手に入り、植える場所が決まれば、あとはいかにブドウを育て、収穫し、醸造・熟成・保管をしていくかがポイントとなってきます。これら、すべてを科学的に丁寧に検証しながら詰めていくのです。それが、三つ目の「生産技術」です。
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