米軍が恐れた「カメジロー」を再び題材にした訳

佐古忠彦監督が瀬長亀次郎を通して見た沖縄

──それは、瀬長さんの日記にあったんですか。

当時亀次郎がいた沖縄人民党の機関紙に記事が載っていました。後に沖縄返還に関わる密約があったことが明らかになりますが、あの論戦の場では亀次郎さんの言葉を受け、佐藤総理が「思いは同じである。平和な沖縄県づくりに私たちも邁進しなければいけない」と言う。それは本心ではあったというか、そう思いたいですよね。しかしその後、政治が歩んだ道はあの場で佐藤さんが言ったこととはほど遠いものになっていくんですが。

佐古監督が「カメジロー」の存在を知ったのは20年ほど前にさかのぼる。日米地位協定などをめぐり、TBS「筑紫哲也NEWS23」の取材で沖縄に通い始めたころだった。
沖縄の彫刻家・金城実氏のアトリエで「銃剣とブルドーザー」という塑像を目にした。土地の収奪に使われたブルドーザーの傍に銃剣を持った米兵が立ち、沖縄の政治のリーダーたちが向き合う。その中の一人が瀬長亀次郎と教えられた。
歳月は過ぎ、沖縄の取材を続けるうち「なぜこんなにも沖縄と本土との乖離が起きているのか。これは戦後史について一度しっかりやらないといけない」と考えるようになった。
それを、「カメジローを通して見るのはどうか」と考えたのが2015年ごろ。そしてテレビ番組としてまとめたものを、映画作品にしたものが、2016公開の1作目にあたる。

──「沖縄の問題は、本土からではわからない」という意見を聞いたことがありますが、この映画を見ていて、それを実感しました。本土の人間は、どのようにして土地が取り上げられて基地となっていったのかという戦後の事情ひとつとってみても、あまりにも知らないできた。佐古さんとしては、沖縄の視点で、それらを描き出したかったということなんでしょうか。

そうですね。沖縄のことをわかろうとする気持ちが本土の人間にないのが、今の問題だと思うんですね。よく考えてみてほしい。戦後日本がこれだけの経済復興を遂げてきたのは、沖縄が軍事占領されてきたことと引き換えだったんですよね。

この映画をしばしば「沖縄の戦後史」というふうに言ってもらえるのはそのとおりなんですが、それはまるごと「沖縄を切り捨ててきた、日本の戦後史でもある」ということを意識しておかないと、また沖縄がハンタイしているよという話になっていく。そこの事実認識を共有していかないと、まっとうな議論は起こらないだろうなと思っていています。

役所広司がカメジローの日記を朗読

──ところで、映画のナレーションが豪華ですよね。亀次郎の日記を朗読するのが、1作目は大杉漣さん。今度が役所広司さん。おふたりの語りのカラーが違っていて、1作目は抑えきれない「怒り」。2作目は「理性」。瀬長亀次郎という人物の2面を感じ取れました。

おっしゃるように亀次郎さんは両方をもっている人だったと思います。日記の中にもあるのですが、「これは怒りの爆発なんだ」と書く一方で、(米軍に指図され対立する人たちを)「憎んではダメだ」とも書かれている。闘う根底にあるのは愛情だという。確かに「怒る人」であるとともに、理詰めで迫っていく。大杉さんもそうですが、今回そこは役所さんなりのカメジロー像をつくっていただけたと思います。

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