待機児童問題が結局「他人事」になる本質的理由 政治家に"軽んじられる"のはなぜなのか

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最近の若者は半径50センチ以内(スマホ)にしか関心がない、と言われるが、多くの大人たちも、自分に切実な問題にしか関心がない点では大同小異である。「一時的な関心事」というだけでは、政治判断に影響力が及ばない。だから保育所の問題はそのときの当事者たちは非常に熱心だが、一過性で広がりが乏しく、政治家から軽んじられる。

ママ友の同士の会話では、「あの子は保育園に入れたのに、自分の子は落ちた!おかしいじゃないか」と話題に上がり、ネットでもさまざまな意見が飛び交っている。こんなにかなり盛んに議論されているのに、なぜ政治は動かないのか、と思うかもしれないが、しかし、現実の政策決定にそれらが影響することはほとんどないといっても過言でない。

「他人事」に関心をもつという”たしなみ”

2016年に「ほいくえんおちた!」が政治的問題になったが、あれはあの文章にインパクトがあり、野党議員が総理に質問し、新聞やテレビといった政治家がよく見るマスコミに取り上げられたからである。そのときほどのインパクトは今も続いているだろうか。

待機児童問題、幼児教育無償化だけではない。基本的に政治家が気にするのは自分の後援者、票を入れてくれる人の意向であり、自分の選挙に際して無党派層の意見を左右するマスコミ、それも新聞やテレビといった旧来型のメディアである。よく言われることと思うだろうが、これは一般論ではなく、長く官僚として政治の世界の近くで働いてきた筆者からみた実感だ。

政治家に本気で待機児童問題に取り組んでほしいと思うなら、それを自分の住んでいる地域選出の政治家に伝えたり、政治家に影響力のあるマスコミに取り上げてもらえるよう働きかけることだ。ごく一部の活動的な人だけでなく、より多くの一般の人たちが、である。

そんなことを言うと、日々の生活でいっぱいいっぱい、よその人のことなど考えている暇はない、だれか時間に余裕のある人に活動してほしいという声が返ってきそうである。

ワンオペ育児をする共働き女性などを筆頭に、「自分がいちばん忙しい」という声があちこちから聞こえてくる。私たちの生活圏の外で起こっていることに関心を持つ余裕がない、という気持ちはわかる。それでも働く人であれば、通勤の電車の中でニュースを読む、スマホのアプリでラジオのニュースを聞く時間は取れるだろう。音楽でも聞いてリラックスしたい、ゲームを楽しみたいという人も多いかもしれないが、世の中の動きという「他人事」に少し関心を持つのも大人のたしなみではないだろうか。

世の中の動きを知っても直接子育てや家事には役に立たないし、仕事のうえでも直接には関係ない。政治なんて普通の市民と遠いところにある。どうせ投票しても自分の1票なんてたかが知れていて影響力がないと、棄権している人も多いかもしれない。しかし棄権するということは、政治家に白紙委任状を与えているということだ。

忙しくて時間はなくても、女性も男性も、社会の動きに関心を持ち政治の動きに関心を持って投票したほうがいい。投票による意見表明によって政治家に影響力を行使することが次の社会の在り方に影響する。政治はわからない、誰かが考えてくれるだろうというお任せ民主主義では済まない。

待機児童問題だけではない。原子力発電、SDGsなど日本は今多くの難しい問題を抱えている。子どもたちの将来にも関わる課題に関心を持ち、選挙で投票すること。わかってはいるけど実際にはできていない、そんな大人のたしなみを、もっと意識的に身につけてもいいのではないだろうか。

坂東 眞理子 昭和女子大学総長

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ばんどう まりこ / Mariko Bando

1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、2003年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に330万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。

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