「子どもの医療費」助成が過熱しすぎの問題点 健康を見守り、経済的負担を軽減する制度だ

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子育て世帯を支援し、子どもの医療費を助成するという趣旨は、おおむね好意的に受け止められています。

ただし、課題もあります。助成対象の拡充競争が近隣自治体で過熱した結果、過剰な受診を招いてしまったり、財政基盤の弱い自治体から助成規模を縮小することになってしまったりするのではないかと懸念されています。

一般的に、自己負担が軽減されると受診頻度が上がり、医療費が高くなることが知られています。医療費の自己負担の2割は自治体が負担していますが、自己負担分以外の残りの8割は公的医療保険が負担しています。自己負担が軽くなったことにより、過剰に受診するようであれば、小児科医を中心とする医師の負担が高まるだけでなく、医療費高騰の一因となります。

厚生労働省では、全国で子どもの医療費を無償化した場合、数千億円規模の波及増加があると試算しています(厚生労働省「第4回子どもの医療制度の在り方等に関する検討会(2016年2月)」)。

制度を見直す自治体もある

さらに、助成が受けられない年齢の重度の疾病を抱えた若者もいる中で、限りある財源で子どもだけを助成していていいのか、今後も助成を継続できるのか、医療費の助成よりも親の不安解消のための相談窓口の設置や貧困対策を優先すべきではないか。子どもの健康増進を目的とするならば、妊産婦への補助や、子どもに向けた食事面、運動面での補助を行ったほうが効果的なのではないかなどの課題が挙げられています。

実際、持続的な助成を行うために、制度を見直す自治体もあります。兵庫県三田市では、中学生以下の医療費を無償としていましたが、税収の減少にともない、今後、患者の一部負担や所得制限の導入を決めました。

親の心配しすぎによる受診増加は、必ずしも悪いとは言えません。しかし、相談窓口で解消できるものも多いと考えられています。かかりつけ医を持つことや小児救急電話相談事業(#8000)など電話による医療相談窓口、子どもの病気に関する講座などによる助言やサポートによって、受診を適正化できた自治体もあります。

この助成は少子化対策の一環としての子育て世帯への経済的支援だと言われることがありますが、医療費が無料であることを理由に、子どもを産む人は少ないと思われます。また、子どもの健康維持・増進効果は十分に確認されていません。それにもかかわらず、近隣自治体と子育て世帯を奪い合っているのが現状です。

一方、子ども時代の健康状態は、成人してからの健康にも影響を及ぼすことが知られています(阿部彩『子どもの貧困』岩波新書)。そのため、子どもの健康は、政策として守っていく必要があると思われます。子育て中の親は、こういった制度を知り、子どもの受療機会を適切に利用することが推奨されます。

自己負担がないために、子どもの受療に、実際いくらかかっているのか、どういう検査を行い、どういった治療を行っているのかなどを把握していない親もいるようです。

しかし、子ども時代の受診習慣は、成人してからも続くとも考えられます。成人期以降の疾病の早期発見・治療や適切な受診のためにも、自分の健康状態を把握し、必要に応じて医療機関を受診するスキルは子ども時代に身につけておくことが重要となります。

村松 容子 ニッセイ基礎研究所保険研究部 准主任研究員

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むらまつ ようこ / Yoko Muramatsu

死亡・疾病発生リスクについて、統計的にその発生状況を算定すること、および、消費者調査を通じて消費者がどのようにリスクに対応するのかを研究。国が公表している疾病統計以外にレセプトデータ、健診データ、健康に関する消費者の意識調査などを使ってさまざまな視点から分析している。ニッセイ基礎研究所の著者ページはこちら

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