42歳「法廷画」でとことん際立つ男の波乱万丈

「絵で食べる」ためやれることをやり尽くした

日曜日だけ遊漁船を出し、平日は親戚の工場でリフトに乗る仕事をあてがってもらっていたが、周りと頻繁にトラブルを起こし、家では酒に溺れる日々を送るようになる。うまくいかないフラストレーションは暴力となって家族に向かった。

「母は母で、『お金がない』『お金がない』というだけで行動しない。本当にピンチになったら、親戚に無心にいく姿を見て子ども心に、お金がないとこんなに惨めなんだなあ……と思っていました」

対価がもらえる成果物としてイラストを捉えたとき、あらゆる文献が教科書になった。書店に並ぶ本だけでなく、自治体が発行する冊子にも、保険のパンフレットにもイラストが使われている。地域のイベントに集まる家族のイメージ画なら、適度に抽象的で適度に普通の身なりの家族が描けないといけないし、傷害保険だったら事故に遭ったり包帯を巻いたりした同じタッチの老若男女の絵が求められる。

イラストを1日に何カットも仕上げる必要があり、スキルをどんどん磨いていった(筆者撮影)

そして、それを1日に何カットも仕上げる必要があるから、スピーディーに描けないといけない。人体を骨格から、クルマや家具は構造から理解し、それらを1枚の中に正しく配置するために透視図法を学ぶ必要もある――。運動が苦手で、学校の勉強も好きではなかったが、絵だけは誰に言われるともなくスキルを磨いていった。

中学校を卒業し、工業高校のインテリア科に入学したあとも、イラスト好きな友達の中で同じ視点で語れる人間はいなかった。そういう意味で孤独だったが、周囲に期待しないことは慣れっこでもあった。家では相変わらず父親が暴れ、母親は愚痴を言うだけで動かない。「こうなってはいけない」と両親を反面教師として冷めた目で見ていたから、反抗期も一切なかった。

「よそと比べても仕方がない。比べたら惨めになるだけだから。ちょっと難しいけど、そう思っていました」

まずは3年間、社会勉強のつもりで就職

高校を出ると地元の家具メーカーに就職。いきなり絵で食べていくには足りないものが多すぎるので、まずは3年間社会勉強しようとの考えだった。

それからは、自宅から45km離れた工場で始業1時間前の7時から働くために朝5時半に家を出て、早くて21時に帰宅するのが日常になる。夕食や風呂などを済ますと23時のニュースの時間。そこから0時過ぎまでの自由時間を絵の勉強にどうにか充てて月曜から土曜日を乗り越えていく。

仕事にはすぐに慣れて、CAD設計からプロトタイプの製作、クライアント先との交渉や打ち合わせまで担うようになる。職場はホワイト企業とは言い難く、上司や先輩の怒号が飛び交う環境であったが、それでも仕事そのものは楽しかった。自分が設計した家具が実際に製造されて、全国の小中学校や大学の講義室などに設置される。その喜びを支えに、7年7カ月間勤めた。

よしたかさんの仕事場。「インテリアデザイナーだったこともあって、インテリアは好きなんですよ。だから仕事場も作品だと思っています」(写真:よしたかさん提供)
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