42歳「法廷画」でとことん際立つ男の波乱万丈 「絵で食べる」ためやれることをやり尽くした

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当初の予定から大きくずれ込んだ裏には家庭の事情がある。就職して2年目の頃に父親が2度目の脳梗塞を起こし、今度は寝たきりになるほど重度の後遺症が残ってしまった。

母は介護に明け暮れ、宗教を心の拠り所とし、よしたかさんが生活費を家庭に入れても少なくない金額をお布施に使ってしまう。同居する父方の祖母は父親を溺愛するばかりで、上の兄弟はすでに家を出ているなどして助けにならずという状態。もともと悪かった環境はさらに劣悪さを増していた。

仕事、家庭のストレスが募る。とても職を辞してステップアップする余地はなかった。直接の原因は不明だが、自分の意思では止められないさまざまな発作が襲う難病・トゥレット症候群をこの時期に発症し、現在まで抱えている。

ただし、ただ黙って耐えていたわけではない。就職後まもなく、仕事を通して地元地方紙にできた縁から4コママンガの連載枠を得て、通信教育で素早く油絵を仕上げるWet-on-wet技法を取得して、日曜日にカルチャーセンターで講師を勤めるなど、絵で食べていく道の模索を続けた。

「油絵の講師はあがり症を克服するためという意図もありました。絵を描く仕事とはいえ、個人事業主になるならいつかは人前でしゃべる機会が出てくると思ったので。

とにかく20代の頃は『去年の自分より今年の自分のほうができていることが増えている』ということを目標にし、それを実感しながら生きていた感じでした。せっかくこれだけ時代が動いてきているんだから、もっと勉強してやれることを増やしていかないとなって」

“時代の変化”が指すのはデジタル化だ。

よしたかさんがインターネットに触れたのは1998年。そこに無数に散らばっている個人のホームページに魅了された。全世界に向けて自分の意思や能力を伝えられる。しかも無料で。

イラストの世界にデジタルが台頭することを確信

本格的にサイトを作るべく、なけなしの貯金をはたいて安価なパソコンを買うと、デジタルペイントの可能性にも気づくことになる。どれだけ描いても画材がいらない。

ペイントソフトや入力用のタブレットをそろえれば、あとは絵の具やキャンバスなどその都度買い足さなくても絵が描ける。自分が何者であるかを発信し、ランニングコストを限りなくゼロに抑えて成果物が作り出せる。この頃からイラストの世界にデジタルが台頭することを確信していた。

もう1つ、2001年に大阪芸術大学の通信教育部へ入学しているのも見過ごせない。

1999年末、自分に足りないものはアカデミックな教育ではないかと感じていたところに大阪芸大が通信教育を始めるという情報を雑誌で知り、何としても入学したい思いに駆られた。4年間の学費はざっと見積もって120万円。今の給料ではとてもじゃないが捻出できない。

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