プロ野球「FA制度」から失われた本来の意味 長野・内海の人的補償が話題を呼んだが・・・

✎ 1〜 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

MLBの労使抗争は「ミリオネア(百万長者)とビリオネア(億万長者)の争い」と言われ、アメリカ社会のひんしゅくを買った。ストの影響でMLB人気は下落した。しかしながら、年俸の高騰には歯止めがかからなかった。

MLB球団の経営者、そしてMLB機構は、選手側の要求を抑え込もうとする一方で、こうした状況に対応するため、ビジネスモデルの変革に着手した。これまでの観客動員を中心とした昔ながらの事業展開から、放映権ビジネス、ライセンスビジネス、フランチャイズビジネスなどを多角化し、より多くのファンに向けてビジネスを展開した。国際市場にも進出した。

またマーケットを拡げるために、エクスパンション(球団増設)も行った。

球団経営者から機構のトップに立ったMLBのバド・セリグコミッショナー(実質在任1992年~2015年)が辣腕をふるい、MLBのビジネスモデルを根底から変えたのだ。

この結果、MLBの観客動員は1978年の26球団・約4064万人から2017年には30球団・約7268万人へと急拡大した。また各球団の企業規模も飛躍的に拡大した。

アメリカでは、NBAやNFLなどMLBと競合する巨大なプロスポーツが覇権を争っている。MLBがFA権騒動に端を発するビジネスモデルの改革に着手していなければ、今頃は他のスポーツの後塵を拝し、マイナースポーツに転落していたかもしれない。

FA制度の導入は、ともすれば既存球団による談合、なれあい的な運営に陥りがちなスポーツ業界に旋風を巻き起こし、変革の背中を強く押したのだ。「災い転じて福となす」ではないが、MLB球団経営者は変革によって逆境をビジネスチャンスに転換する知恵と勇気を与えられたといってもいい。

NPBはぬるま湯に安住しているのではないか

対照的に、NPBのFA制度はNPBのビジネスモデルに大きな影響をもたらしてはいない。

この間に12球団の多くは、親会社の「広告部門」と呼ばれる位置づけから、独立採算中心へと変わった。また地域密着型のマーケティングによって観客動員も増大した。しかしながら、球団数は60年にわたって増えていない。観客動員増もリピーターへの濃厚なマーケティングの成果であって、実質的な新規ファン数は減少している。

日本には、NPBのマーケットを脅かすような競合プロスポーツはほとんどない。そしてFA制度が「限定的」なものにとどまっているために、年俸の高騰も抑えられている。日本のプロ野球選手の中には、あたかも会社員のように所属している球団に帰属意識を持ち、引退しても球団にとどまろうとする人も多い。

経営者には結構な話かもしれないが、「ぬるま湯のようなビジネス環境」に安住しているのが現状だ。

改めて問いたい。日本のFA制度はいったい何のために存在するのか?

次ページFA制度の前に存在した「10年選手制度」
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事