「カノジョ手当」を息子に支給する父親の思惑 自宅のプリウスも子どもが決めた

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仕事の合間に、すこしでも時間ができれば、自然と家族の話が始まる。私の知る限りだが、広告業界のような華やかな世界の第一線に身を置く男性には、家庭の存在を少しもにおわせない人がいる。あるいは表向き、愛妻家や子煩悩を自称しながら、家事や育児の実務にはほとんどタッチしない人も珍しくない。

ところが、Sはそのどちらでもなかった。気がつくと、ごく自然に家事と育児の話をしている。こんな人もいるのかという新鮮な驚き。それが、Sと会って最初に抱いた印象だった。

この夜もSは、回鍋肉作りのコツを皮切りに早速、家族の話を始めた。

「僕が料理すると、また何か変なもの作るかもしれないって、子どもたちが心配そうに見にくるんだよ」

「うちの夫婦はいわゆるバカップルだからさ。子どもたちが独り立ちして家を出ていったら、どこに旅行に行こうとか、何をしようとか、いろいろ計画して楽しみにしてたわけ。だけどなぜか計画が狂っちゃって、結局まだ家族4人で暮らしてるんだよね」

言葉とは裏腹に、それはそれで嬉しそうだ。

Sの妻は、Sが新卒で就職した広告代理店の同期だったらしい。Sの方は途中で辞めて独立開業したのに対し、妻は会社で順調にキャリアを積み上げ、今では多くの部下を束ねる立場にあるという。

子どもは2人。現在24歳の長男と、19歳の次男。父親も母親も同じように忙しい共働きだからこそ、家事も子育ても、基本的にはやれるときにやれる方がやる、ただそれだけのシンプルなルールでやってきたのだという。

中学生の息子が車を買うときの責任者

大変なことはなかったですか? ぼんやりと尋ねると、Sは少し考えて答えた。

「うちは、大変なことはなんでも全部プロジェクトにしちゃうの。家族はみんな、プロジェクトを一緒に運営していくための仲間。家を買うことになったときも、必要な情報や書類、手続きをあらいだして、WBS(作業工程表)を作って、全員で手分けして取り組んだのよ。車を買おうってことになったときは、車好きの長男を責任者に任命したの。どの車を買うべきかよく考えて選ぶように。何を選ぼうと、父さんたちは絶対にそれに従うからって」

「え、息子さんに選ばせたんですか?」

私が驚いて尋ねるとSは笑いながら頷いた。

「当時中学生だった息子にね。フェラーリとかポルシェなんて言われたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしてたんだけどね。うちは4人家族だし、スポーツカーなんて選んだところで全員乗れなきゃしょうがない。維持費や環境のことなんかも息子なりに考えて、最終的にはプリウスにしようって言ってきたんだよ」

車種が決まるとすぐに、Sは息子とともにトヨタの販売店へと赴いた。営業マンにも「うちの担当者はこの人ですから」と息子を紹介。色やグレード、外装や内装のオプションにいたるまで、本当にすべての選択を、息子に一任したのだという。

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