もし、私が子ども時代にそんな権限を持たされていたらとふと考えてみると、大した考えもなしに高級車を選んだり、無いよりあった方が良いだろうからと、ありったけのオプションをつけてほしいと言ったかもしれない。
Sにそれを言うと「息子たちは、両親の年収がだいたいどれくらいかってことも把握してるからね」とのこと。なるほど。たしかにプロジェクトを運営していく仲間である以上、全員がだいたいでも予算感を把握しておくというのは重要なことだろう。さすがはプロジェクトメンバーだ。
するとSは、思い出したように切り出した。
「そういえばうちでは子どもたちの小遣いも、“小遣い”じゃなく“手当”って呼んでたんだ」
「手当、ですか」
子どもたちへの”手当”支給制度
「そう。しかも手当は3部構成になってる。まずは基本給として一律500円。それに、職能給が加算される。これは英検、漢検、数検のどれかひとつ合格するごとに500円ずつ。そして最後は“カノジョ手当”」
「……彼女手当?」
「そう。彼女ができたら、手当として月に5000円支給するの」
「えーー!」
驚きのあまり、つい大きな声をあげてしまった。たしかに、恋人ができるとデート代やら何やらでお金がかかるものだ。しかし、だからといって手当を出すという発想はまるでなかった。
「それで、息子さんは、手当をもらえたんですか?」
「うん。長男は高校2年のときにね。おもむろに“……カノジョ手当の支給をお願いします”って申請してきた(笑)」
「へぇ!」
なんと素晴らしいシステムかと、思わずため息が漏れた。なんでもこれ、当時仕事で経理システム開発を担当していたSの妻が発案したものだという。一般的な中高生男子に彼女ができたとき、“彼女ができました”と親に嬉々として報告する姿はあまり想像できないが、報告しさえすれば手当として現金が支給されるのであれば、背に腹は代えられないということにもなるだろう。なんと効果的なインセンティブ。Sはさらに続けた。
「だけどそれから半年くらい経って、また息子がやってきてね。今度は暗い顔して“カノジョ手当、やっぱり不要になりました”だって。ハハハ」
不正受給は良心が咎めたのだろう。正直者の、いい息子さんだ。
それにしたって、S家の試みはどれも独創的で、画期的で、私たちもほんの少し頭を働かせて、柔軟に工夫しさえすれば、家族を楽しむ方法はまだまだいくらでもあるのだと感じさせてくれる。子どもたちにとっても、プロジェクトの一員として役割を与えられることや、能力や状況に応じてお小遣いの額が変わることは、大人として社会に出ていくうえで、何よりいい経験になるだろう。
Sは続ける。
「子どもは大人に信用されて、大きなミッションを与えられると喜ぶ。それに何より、やり遂げたときにぐっと成長するんだよ」
子どもを信用して任せる。簡単なようでいて案外難しい。しかし、だからこそ子どもは大人の本気を測り、その価値をしかと肌で感じ取れば、なんとしても責任を全うしようという強い気持ちを抱くのかもしれない。そしてそれこそが、子どもを何段階も一足飛びに成長させる、ジャンプ台のようなものとなるものなのかもしれない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら