「別れた妻に好物を作らせるって、考えてみれば図々しい男だよね」
そう言うとYは、はは、と声をあげて笑う。今年52歳を迎えた友人Yの好物は、鶏肉とニンニクの芽の炒め物。それも、別れた奥さんの味付けでなければだめなのだという。
「妻と別れてからほかの子に作ってもらったこともあったけど、やっぱり何かが違うんだよね」
20年目の離婚
私とYが知り合ったのは3年前のことだ。出会ったきっかけは、共通の友人で作家のNに、こんなふうに紹介されたこと。
「僕の友人の中でもあなたたちは特に、離婚をして幸せになった2人なんだよ」
Yが20年近く連れ添った奥さんと離婚したのは、今から5年前のことだった。
「まあよくあることだけど……」
離婚の原因を尋ねると、Yは困ったように笑いながら答えてくれた。
「俺が長い間仕事にばっかりかまけてたんで、妻の不満に気づかなかったんだよね」
Yは29歳の時に、父の営む建設会社を引き継いだ。外からは見えなかったが、中に入ってみると会社は多額の負債を抱え、今にも潰れそうだった。
そんな状況を長い間見て見ぬ振りをしてきた先代、つまり実の父への社員からの怒りは、息子であり、二代目社長となったYにそのまま向けられた。Yは途方に暮れたが、だからといって、家族や社員を路頭に迷わせることはできない。地をはうようにして駆けずり回り、10年かけて会社を再建した。
家族とゆっくり過ごす余裕がないことは、妻も十分に理解してくれていると思っていた。けれどすっかり会社が安定し、生活が落ち着いた頃になって、妻の口からYへの不満が少しずつ漏れ出るようになったという。
「俺はそこでようやく、寂しくさせてたんだなって気づいたんだよ。反省した。それからは、料理以外の家事はほとんど俺がやるようにしたし、妻がやれって言うんで、子どもの学校のPTA会長だってやった」
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