朝の押し問答が日課となっていた時期もあった。けれど、どんなになだめてもすかしても怖い顔を見せても、ベッドからかたくなに離れようとしなくなった娘に、そんなに行きたくないならもうしょうがないと、あるとき、ついに私のほうが根負けしたのだった。
伝統校の非効率な古いしきたり
娘が在学していたのは関東にある、とある私立の一貫校。中学入学直後の一時期、娘は通学の手間を考えて学校付属の寮に入っていた。寮には基本的に個室はなく、同級生や先輩数名と同室だ。ただでさえ気を使ううえに、新入生は何かと忙しく、朝から夜まで1日のスケジュールがぎっしりと詰まっている。おまけに、親が子を入れ、子が孫を入れ存続してきたような伝統のある学校だったから、効率を度外視しても守らなければならない古いしきたりがたくさんあった。
かたや、わが家の日常の半分はインターネットの中にあると言っても過言でない。ウーバーイーツで夕飯を頼み、共有カレンダーでスケジュール管理。お小遣いはもっぱらLINE Payで送金。無駄なこと、非効率なことは、技術の力でどんどんそぎ落とすことができる。だからこそ自分たちだけでは得がたい経験ができるとひかれて選んだ学校だった。
しかしいざ入学してみると、学校での生活は想像していた以上に大変なものだったようだ。休みになり、寮から帰って来るたびに娘は、新しい日常の中で見てきたこと、感じてきたことを何時間も止めどなく私に話し続けた。
あのしきたりはどうして必要なのかわからないとか、立て続けに理不尽な目に遭って、最初は黙って我慢していたもののとうとう言い返したとか、クラスの子があまりにもひどい言い方をされている気がしてどうにも我慢ならないとか。
どこを見渡しても戸惑いだらけの中で、娘は明らかにそれまでとは比べ物にならないほどたくさんのことを考えていたし、手に余る新しい日常を、なんとか受け止めようと努力していた。
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