「ごぼう蕎麦」を作る美女の忘れられない記憶

「ご飯を作って」と呟く女子高生の数年後

Yの日記の文末にはいつも……(イラスト:Masami Ushikubo)
『家族無計画』『りこんのこども』など家族に関する珠玉のエッセイを生み出してきたエッセイストの紫原明子さん。この連載で綴るのは、紫原さんが見てきたさまざまな家族の風景と、その記憶の中にある食べ物について。紆余曲折あった、でもどこにでもいる大人たちの過去、現在、そして未来を見つめる物語です。

20年前のインターネット世界で

「おかあさん、ごはんをつくってください」

私が最初にYと出会ったのは今から約20年前、高校生の頃のことだった。

出会ったといっても私たちはインターネットの中の友達で、彼女は私より1歳年下。ものすごい美人だという評判を聞いたことはあったけれど、実際に顔を見たことはなかった。

紫原明子さんによる新連載、1回目です

当時はじわじわとPHSがポケベルにとって代わっていた頃で、当然スマホなんてものもなく、私たちはいつも自宅のパソコンを使ってチャットで話をした。

私もYも、当時からインターネットに日記を公開していた。当時のインターネットではそういうのが流行っていたのだ。画数の多い漢字はつぶれてろくに読めないくらい、フォントのサイズを極限まで小さく指定するのが流行っていたりした。

だいたい、みんなそこに学校でのことや恋愛のこと、ちょっと背伸びして哲学的なことを知ったような口調で書くのだが、例によって小さな小さな字で記されたYの日記の文末にはいつも「おかあさん、ごはんをつくってください」という一言が添えられていた(Yには少し変わったところがあり、当時一時的に漢字を使わないで生活することを自分に課していたのだ)。

私の母は、たとえこちらがいらないと言っても朝昼晩と三食きっちり作ってくれる人で、世のお母さんというのも全員そういうものだとばかり思っていた。だからこの一文を見るたび、心が波立った。パソコン越しに、断片的にしか知らないYの日常。見えないところでいったいどんなことが起きているのだろう。

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