「カノジョ手当」を息子に支給する父親の思惑

自宅のプリウスも子どもが決めた

彼女ができた息子に「彼女手当」を支給する父。その思いとは…(イラスト:Masami Ushikubo)
『家族無計画』『りこんのこども』など家族に関する珠玉のエッセイを生み出してきたエッセイストの紫原明子さん。この連載でつづるのは、紫原さんが見てきたさまざまな家族の風景と、その記憶の中にある食べ物について。紆余曲折あった、でもどこにでもいる大人たちの過去、現在、そして未来を見つめる物語です。

回鍋肉とロマンスグレー

「そういえば、回鍋肉をおいしく作るコツ知ってる? 」

「どうするんですか?」

「炒める前のちぎったキャベツを、よく揉むといいんだよ」

「揉むって、塩で揉むんですか?」

「いやいや。そのままでぎゅっと。そうするとこんなふうに、タレがよくからむんだよ」

ある日の夜、2時間にわたる長いインタビュー取材を終えた私は、依頼主のSとともに、閉店間際の中華料理屋で遅い夕飯をとっていた。眼の前の皿に盛られた回鍋肉。自身のこだわりの作り方を語るSは57歳の、お洒落でジェントルな男性だ。すらりとした長身にロマンスグレーのロングヘアをひとつにたばね、トレードマークの黒のハットを被っている。

紫原明子さんによる新連載。この連載の一覧はこちら

名だたる企業の広告戦略の立案を生業とするS。都内にある彼の仕事場には、一般的な事務所とは少しだけ違うところがある。業務用の重厚な調理設備が一通り揃った、それはもう立派なキッチンが備えられているのだ。

打ち合わせではじめてSの事務所を訪れたとき、驚く私にSは言った。

「僕もうちの奥さんも、とにかく料理と酒が好きでね。家では交代でつまみを作りながら、翌日二日酔いになるまで飲んじゃうの。だから事務所にも友だちを呼んで、大勢で食べたり飲んだりできるように、キッチン付きの事務所を探したの」

隙あらば夫や子どもの話をするという女性は少なくないが、隙あらば妻や子どもの話をする男性というのはけっこう珍しい。Sはその珍しい中の一人だった。

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