羽生善治は何のために将棋を指しているのか 「勝つことには意味がない」と考えるワケ

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──羽生善治の本質は何でしょうか。

……難しいなぁ。もちろん多面体でいろんな顔がある。若いときの勝ち方はものすごくて、鬼のような勝負師。またつねに最新型に通じた研究者。そして将棋の真理を追究する表現者であり、面白いドラマを自ら作って自ら見たいという将棋ジャンキー。そして人に優しい。よく思ったのは、棋士としても人間としても底がない、果てがない、ということ。将棋もつねにギリギリの均衡を保ち続ける。終わりがない。それがタイトルの「超越の」につながっています。

羽生氏の言動には今の時代生き抜くヒントが

──AIの台頭など将棋界も変化の波が激しいですね。

『超越の棋士 羽生善治との対話』(高川武将 著/講談社/1800円+税/407ページ)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

羽生さんは「AIの影響を大きく受け、確率一辺倒になりつつある将棋界に反抗心がある」と言いました。それが、48歳の今の羽生さんを支えているような気さえします。勝つ確率から、ある手を選択する人の割合が98対2くらいに分かれても、2のほうにこそ可能性がある、つまり、負けると思われる手にこそ未来の可能性がある、と強調し続けている。

目先の勝ちを取るのか、未来の可能性を取るのか。リスクマネジメントの難しさもあり、「あらがっていくのは大変」と本人も言っていますが、その指摘は、生き方だけでなく、ビジネスの世界でも非常に大事な視点ではないでしょうか。

羽生さんの思考、言動には、ビッグデータに影響を受けざるをえない今の社会で、しっかり生きていくためのヒントが多くあると思います。突き詰めれば、自分の頭で考えること、直感をはじめとする「感覚」を大事にすること、また、あえて逆を行くこと、でしょうか。

──まだ“卒業”できない?

そうですね。実は、原稿を書き上げて、一冊の本になっても、不思議に達成感、充実感がないんですよ。ネガティブな感じではなく、非常に心地よい。不思議ですが、まだまだ聞きたいテーマはいっぱいあります。もっともっと深みに入り込みたい。やはり、羽生さんの人間的魅力は将棋と同様、果てがない、底なし、という感じがします。

石川 正樹 東洋経済 記者

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いしかわ まさき / Masaki Ishikawa

『会社四季報』元編集長。2023年より週刊東洋経済編集部。

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