羽生さんの扱われた方は「画一的」
──これまで高川さんの取材対象はアスリートが中心でした。本書では将棋界の羽生竜王にフォーカスしています。
最初のインタビューのとき、問いへの答えに微妙なズレがあり、何ともいえない違和感、敗北感を覚えました。「これは何なんだ」という意識がずっとありました。羽生さんの話には、一見、「まともなこと」を言っているようで、曰(いわ)く言いがたい「不協和音」があります。すぐには理解できない「特異さ」とか「狂気」といえるかもしれません。これに対し、「負けてたまるか」という気持ちが湧き、次こそ羽生さんの心の奥底にあるものを引っ張り出したいと思いました。
羽生さんのメディアでの扱われ方が画一的で、天才、とてつもなく将棋が強い人、すごく頭のいい人といったアイコンでくくられている。羽生さんの実績と将棋界への貢献には計り知れないものがありますが、その羽生さんの「人間的実像」がきちんと伝わっていないことを知り、ならば自分がそこに踏み込んでいってみよう、と大胆にも、また傲慢にも思いました。
──インタビューでは将棋の話ばかりです。
そうですね。振り返れば私生活の話はほとんど聞いていない。羽生さんの人生が将棋そのものだと最初から感じていたからかもしれません。羽生さんが将棋を語るとき、「将棋」という言葉を「人生」に置き換えると、すべてが人生哲学や生き方に通じる。逆説的な真理は、示唆に富んでいる。そこが面白く、強く引かれた要因でしょう。
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