「ピッチに立てない時間」が選手を強くする 読書するサッカーJ1「点取り屋」の失敗哲学
若さで突っ走るだけではなく、試合に出られない時間のことも知っている選手が多くて、忍耐力があるんです。サッカーで勝てるかどうかは、精神的な部分がいちばん物を言いますからね。
アスリートの息づかいが聞こえた
――都倉選手も、試合に出られない経験を多く乗り越えてこられました。
僕自身、ずいぶん悔しい思いをしながら、忍耐力を鍛えられてきたように思います。7年前、ヴィッセル神戸時代に足を骨折して試合にも練習にも出られなくなったことがありました。プレーができないサッカー選手なんて、なんの価値もありません。どうしようと考えて、とりあえず本を読もうと決めました。
そのときたまたま手に取った司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで、感動しました。坂本龍馬という人物を通して、いろんなところへ連れて行ってもらえるような、まるで自分の世界が広がって眼が開いたような気分になったんです。それからすっかり読書好きになりました。この時の感覚に近い読後感を持ったのが、ナイキ創業者の自伝『SHOE DOG(シュー・ドッグ)』です。
僕はあまりナイキやフィル・ナイトに詳しくなくて、ほぼなんの情報もなく読み始めたのですが、人間くささが全面的に出ているなというのが第一印象でした。経営者の自伝ですから、頭で考えた、思考優先のビジネス的な話が多いんだろうと思っていたんです。ところがそんなイメージとはまったく違いました。話の展開や描写のなかにスポーツマン特有の言い回しがあって、共感を得られる部分が多いんですよね。
たとえば、息子さんが事故死してしまったシーン。肉体的な息苦しさが描写されていて、その表現が胸に迫りました。サッカーの試合でも、緊張や苦しみで吐きそうになったり、心臓が張り裂けそうになったりすることがあるのですが、スポーツをやったことがなければ、あの心臓の苦しさはわからないと思います。フィル・ナイトは、そこを描いていました。
ほかにも、夜のジョギングや、自分に何かを課すストイックさ。自分流のルールの中で肉体をしっかりといじめる人なんですね。ずっと頭だけで考えて来た人だったら、走ってリフレッシュするなんてことは考えません。人間くさくて、泥臭くて、スポーツをやっていた人だなあと共感しました。『シュー・ドッグ』は、アスリートの息づかいが聞こえる本でした。
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