その写真を見たとき、ぎょっとしました。これは、私か――?
顔は写っていないのですが、首や肩のシルエット、髪形、着ている服の雰囲気が、自分とそっくりだと思ったのです。「撮影されたっけ……?」と、一瞬考えてしまいました。
東京・墨田区、下町にあるフォトギャラリー。それは写真家・長谷川美祈さんによる、虐待を経験した子どもの内面の叫びを表現する作品展の一枚でした。
長谷川さんの写真は、静かな力に満ちています。被写体となった人物に、いったい何が起きたのか? 声高に語るのではなく、見る人自らが耳を澄ませずにはいられなくさせます。
私と似たこの女の人は、親に何をされたのか? 吸い寄せられるように見ていたところ、そっと声をかけられました。
「これ、私なんです」
力のある、穏やかな目をした女性が立っていました。まさか本人に会えるとは。「話を聞かせてほしい」と思っていたのを見抜かれた気がして、内心動揺しながらも連絡先を交換し、日を改めて会う約束をしてもらったのでした。
どこにも居場所がなかった
秋本蓮さん(仮名、43歳)。西日本の、とある小さな町で生まれ育ちました。幼少期は主に身体的な虐待を、その後は主に精神的な虐待を受けており、後になって多重人格の症状に悩まされることにもなりました。
強く印象に残っているのは、3、4歳の頃、泣きやまない蓮さんのノドに母親が指を突っ込み、血が止まらなくなって、いつもと違う病院に連れて行かれた記憶。蓮さんの身体に母親が馬乗りになり、口にガムテープを貼り付けられた記憶。泳げるようになるようにと、水の入った洗面器に顔をつけられ、力ずくで押さえ続けられた記憶。
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