親からの「虐待の記憶」に苦しむ43歳女性の今 大人になってメニエール病、摂食障害に…

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別に『親を好き』という人を批判しているわけじゃないんですよ。『私は親にこういうことをされているから、好きになりようがないんだよ』と言うだけなのに、非難されてしまうのはなぜなのか? 『私は親のことが大好き』と言うのと同じように、『うちはね、嫌いなんだ』と言える世の中になれば、(虐待された人の)その後の生きづらさみたいなものも、ずいぶん減らしていけるんじゃないのかな。

親を『嫌い』って言うくらい、『殺す』より、よっぽどましやと思うんですけれどね。なかには本当に親を殺してしまう人もいますけど、そこまでこじらせきって自分の人生を台ナシにするくらいやったら、『親が嫌い』って言って、離れて暮らすほうがずっといいじゃないと思います」

「親が嫌い」と口にできず苦しんでいる人は多い

私もこれまでに取材などで聞いてきた話を思い返すと、蓮さんの言うように、「親が嫌い」ということを口にできず苦しんでいる人は、実はとても多いと感じます。それを言える世の中になれば、犯罪が減少する効果すらもあるかもしれません。

「虐待被害者の中には、『世の中の幸福なやつ、みんな不幸になれ』と思っている人がときどきいます。生きづらさを抱えて、どこにも居場所がなくて、誰のことも信用できなくて、そういう破壊的な思考に走ってしまうのかもしれません。でも、もしもうちょっと早い時点で、そういう人の気持ちを汲み取る人が誰かいれば、修正も不可能ではないのかなって思うんです。

昨日ニュースを見ていたら、虐待の通報件数がどんどん増えているのに、児童相談所の職員が足りなくて、一人ひとりの子どもの話を聞く時間がとれない、という話をやっていました。話を聞くだけで、その子どもの心の負担がぐっと軽減されて、精神状態が落ち着くケースはたくさんあるんやけど、聞き役の人手が足りていないっていうんです。私もいつか、そういうことをしてみたい気がします」

蓮さん自身も幼かった頃に、誰か話を聞いてくれる人がいてくれたらよかったと感じているのでしょう。

「たぶん私は幼い頃、(虐待を受けて)尋常じゃない泣き声をあげていたと思います。誰も気づいてくれんかったのかなーとか、今の時代だったら通報してくれた人おったかなーとか、思うときはあります」

今もどこかで、親から虐待を受け、大きな泣き声をあげている子どもたち。自分ができることは何かあるだろうか? 蓮さんは今、考えているところです。

 

本連載では、いろいろな環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。(例/犯罪被害者家族の方、加害者家族の方、自死遺族の方、等々)
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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