親からの「虐待の記憶」に苦しむ43歳女性の今 大人になってメニエール病、摂食障害に…

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摂食障害になった私に、大量の食べ物の差し入れを繰り返したときも、『やめて』というのに、まったく聞いてくれなくて。

『もしかしたら、私がおかしいのかな?』と思って、(心療内科の)先生に聞いてみたら、『いえいえ、あなたではなく、お母さんがおかしいんですよ』と言われて。ようやく納得して、過去のいろんな出来事がつながり始めたんです」

話を聞きながら、漫画家・田房永子さんの『母がしんどい』(母親との関係に苦しむ作者自身の体験を描いた作品)に出てくる病的な母親の姿がまざまざと思い出されました。蓮さんの母親も典型的な、いわゆる“毒母”でしょう。

蓮さんが幼い頃からの虐待の記憶に向き合い始めたところ、以前からときどきあったフラッシュバックが頻繁になり、しだいに人格交代も起こるようになりました。多重人格の症状です。

多いときは、蓮さんのなかに3、4人の人格がいたといいます。はっきりと認識できたのは、虐待を受けた本人である「B子」、そして蓮さん本人、さらに、感受性の強い蓮さんに代わってつらい記憶に向き合う感情が希薄な人格「fs(free styler)」の3人。さらにもう1人、蓮さんが把握しきれない人格もいたようです。

当時の蓮さんのブログを読むと、時々、fsがそれを書いていたことがわかります。fsは、蓮さんには読むのが耐えがたそうな虐待の本を一晩かけて読み通したり、片付けが苦手な蓮さんに代わり部屋を整頓してあげたりする、とても優しくて強い人物なのですが、今こうして蓮さんと話をしていると、fsもまた蓮さんであることを自然と納得できます。蓮さんにも、fsと共通する優しさや強さを感じるのです(片付けは今でもできないそうですが)。

しかしそれは、とても不安な状態でした。人格交代が起きるたび、記憶が途切れてしまうのです。蓮さんは自治体の精神保健福祉センターを通して、その地方で唯一、複雑性PTSD(虐待などの長期反復的なトラウマによる心的外傷後ストレス障害)の治療を行う専門医にたどり着きました。

実際に治療を受けられたのは、2017年の春~初夏。そこで蓮さんは「変わることができた」と言います。

許さないけど、怒りは消えた

治療のなかでは、大量の宿題が出されました。1つの出来事をいくつもの角度から切り取って、感情の気づきのトレーニングをしたり、時間が経過するなかで「こうしておいたらよかった」と思うことを振り返ったり。医師からの指摘を受けつつ治療を進めるうちに、蓮さんに変化が起きました。

「治療を受ける1年くらい前に母親に送った絶縁状を読み返すと、『私をこんな状態にして、どうしてくれる』という感じで、すごく怒っていました。でも今は『どうしてくれる』ではなく、『どうでもええけど、私にかかわらんでね』みたいな感じです。許さない、という点は変わらないけれど、憎しみや怒りはなくなっている。それは治療の影響がいちばん大きかったですね。

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