親からの「虐待の記憶」に苦しむ43歳女性の今 大人になってメニエール病、摂食障害に…

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治療を受ける前は『(母親から)理不尽なことをされた』と思いながらも、自分を責めてしまうところがあったんですけれど、『責めなくていいんだ』とやっと思えるようになりました。あの人(母親)と私は違う人間なんやとわかって、線を引くことができた。先生が『親を許すか許さないか、今後、親と連絡をとるかどうかも、全部秋本さんが決めていいことなんですよ』と言ってくれたのも、大きかったかもしれません」

最近は怒りが消えた分、以前と比べ活動意欲が落ちたことを、蓮さんは不安に感じているのですが、怒り続けるのも疲れることです。国内で数カ所しか行われていないこの治療を蓮さんが受けられたことは、やはりとても幸運なことだったでしょう。

ただし、治療が成功したのは、蓮さん自身の力も大きかったようです。

「最初から『効果を疑うのはやめよう』と決めていたんです。看護師をしていたとき、患者さんをみていると、『これ、ホンマに効くんかな』という不信感が強い人は、うまくいかないケースが多い。本人の治りたい気持ちとか、医師を信用する気持ちがないと経過が悪いのを見ていたので、『ここは、乗っていこう』と思って。

タイミングもよかったと思います。虐待に向き合い始めてから少し時間が経っていたし、(写真家の)長谷川さんの取材を受けたり、自分でブログを書いたりして、気持ちを整理してきました。そのため、その先生の言うことが、割とすっと入ってきたんです。その後はフラッシュバックもほとんど起こしていませんし、人格交代も今のところ起きていません」

一連の治療を終えた蓮さんは地元を離れ、昨年の夏、東京に出てきました。このとき古い知人が力を貸してくれたことも、蓮さんにとって大きな支えになったということです。

「親が嫌い」って言うくらい、いいじゃない

蓮さんは虐待の問題をもっと広く世間に知らせるため、自分の体験を語っていきたいと考えています。しかし、そこにはいくつかの壁があると感じています。ひとつは、虐待を受けた“仲間”からの攻撃です。

「誰かが虐待の経験を話すと、ほかの虐待経験者が『それくらいで虐待と言うな』とか『人前で話すのがエライわけじゃない』などと、ネット上でバッシングするのをよく見掛けるので、そこが難しいなと思います。自分が穏やかに過ごせればいいと思っていて、この世から虐待がなくなってほしいとは思っていない人も、いるのかもしれないですね」

もうひとつの壁は、「親を悪く言うべきでない」という世間からの圧力です。蓮さんはこの圧力があまりにも強いため、虐待の問題がよりこじれてしまうのだろうと考えています。

「『親にこういうこと(虐待)をされた』と言ってはいけないような風潮もありますよね。『育ててもらったのに何を恩知らずなことを言っているんだ』というような。その風潮のせいで、自分がされたことを“アウトなやつ”(しつけではなく虐待)だと気づけない人や、(後遺症を)長くこじらせてしまう人がとても多い。虐待が明るみに出ないのも、その風潮のせいもあると思うので、そこはとっぱらわないといけないのかなって思います。

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